自分はなぜテストを書かないのか

自分はなぜテストを書かないのか

自分はなぜテストを書かないのか

僕は一人でサービスを作っているのですが、テストを書きませんし、書くのは時間の無駄だと思っています。ここでのテストっていうのは回帰テストのことね。なぜならめんどくさいから・・ではなくて、今書いたところで対して効果が期待できないからです。

いや、分かる。テストは品質を保つのに大事ですよ。バグが極力無い状態でユーザに提供できた方がいいに決まってますよ。でもね、「やったほうが良いこと」なんて他にいっくらでもある訳で、全部やってたらキリが無いんですよ。リソースは限られています。僕なんかフリーランスで受託開発しながら一人で自分のプロダクトを作ってるので、余計に。その制約の中で、どうすればアウトプットを最大化できるかを考えた時、僕はテストを書かないという選択を取っていますよという話です。

理由をもう少し詳しく説明します。

テストを書く目的ってなんでしょう?プロダクトを作る目的は利益を得ることです。だからテストを書く目的はバグを減らすことではありません。それは手段です。目的はバグによる機会損失を防ぐことと、デグレードなどのメンテコストを下げる事だと思います。

まだ始めたばかりのプロダクトや、充分に収益化できていない時点でテストを書いてもしょうがないのです。そもそも損失する機会が少ないし、気にするほどのメンテコストもかからないですから。

テストにコストをかけるよりは、デグレ上等で前のめりに変更を加えていった方が中長期的にみても機会獲得につながります。ようは守りより攻めの姿勢です。

もちろんコアな機能が動かなくなったら本末転倒です。リリース前は必ずスモークテストしたりひと通り手動で確認する事は重要です。それでもバグは出てしまうものですが、気にする必要はないと思います。だって、ユーザさんが報告してくれるから。

えっ、ユーザを当てにするなって?いやいや、この方がいいんですよ。特にユーザが少ない内は。その少ないユーザさん達と交流できるからです。その代わりバグ報告を受けたら最優先で全力で応じます。そして変更履歴にその報告者さんの名前をクレジットするのです。すると、「俺はこのアプリに貢献したぞ」と喜んでくれて愛着を持ってくれるわけです。

しっかりテストされてバグが排除されたアプリには機会損失が無いですが、機会獲得もありません。バグは図らずともユーザさんと仲良くなるきっかけをもたらしてくれるのです。オープンソースだって、最初から完璧なものより不完全なものの方がコントリビューションが盛り上がるって言うじゃないですか。

「テスターは最初のユーザ」といいますが、一人で作っている場合は自分自身が最初のユーザでもあります。他にいませんからね。チームで分担作業をするとどうしても自分の担当範囲ばかりに目がいって、全体を俯瞰して評価することをおろそかにしがちです。

「そもそもこの設計っておかしくね?」という問いを最も立てやすいのはテスターです。一人で作っているから、この全体最適化の観点は常に持つことが出来ます。そしてチームだったらその「おかしくね?」が言いやすい雰囲気かどうかって結構大事だと思うんですけど、一人なら全て自分次第です。もとい、自分との闘いです。

以上、僕がテストを書かない理由をつらつら述べてきました。あくまでこういう条件の場合はいらないよという話です。逆に当てはまらないのならテストを書くべきです。ユーザが増えて収益も上がってきて複数人体制になったら、バグによる機会損失が無視できなくなるでしょう。

テストを書く必要性があるというのは贅沢な悩みで、すごく羨ましいことだと思います。僕も早くそうなりたい。

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禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか

禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか

InkdropはMarkdownのノートアプリですが、Markdownの独自拡張は「絶対にやらない」と決めていて、それがアプリの哲学になっています。 Markdown(厳密にはGitHub-flavored Markdown)の強みは、ソフトウェア業界標準で広く使われてい緩い文書フォーマットという所です。 アプリの独自記法を加えてしまったら、あなたの書いたノートはたちまちそれらと互換性がなくなります。 「独自記法を加えた方が便利な機能が付けられるだろう」と思うかもしれません。もちろん実際Markdownは完璧な書式ではないため、必要な場面はいくつかあります。例えば画像のサイズ指定方法が定まっていない、など。それでも自分は、ノートの可搬性を第一にしてきました。その裏には禅にまつわる哲学があります。 日本の文化は周りの環境と対立するのではなく、溶け込もう、馴染ませよう、共生しようとする傾向があります。窓の借景、枯山水、建築の非対称性、茶室のシンプルさ、侘び寂びなどあらゆるところで見られます。 絵画における「減筆」の手法を例にとって説明します。 これは、描線を最小限に抑えながら絹や紙の

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Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

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Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

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By Takuya Matsuyama