MarkdownノートアプリInkdropで家賃の半分が賄えるようになりました

MarkdownノートアプリInkdropで家賃の半分が賄えるようになりました

MarkdownノートアプリInkdropで家賃の半分が賄えるようになりました

4月にInkdropの総売上が10万円を超えた報告をしてから、久々の売上報告です。Inkdropはクローズドソースですが、プロジェクトで得た知見は惜しみなくオープンにしていくつもりです。どんどんやり方パクってください。もし質問などあればコメント欄やTwitterにて受け付けます。

  • 驚きの解約率の低さ
  • 注文の多い少数派を相手にしすぎない
  • ブログを始めたら日本のユーザが増えた
  • 1000人のユーザが1人を食わせるモデルを確立したい

既にInkdropについてご存知の方は読み飛ばして下さい。

Inkdropはマルチプラットフォームで動作するノートアプリです。今のところmacOS、Windows、Ubuntu、iPhone、Androidに対応しています。

日々の作業記録や議事録、コードスニペットからブログの下書きまで、技術的な事柄を構文ハイライト対応のMarkdownで快適に書けるようにデザインされたアプリです。美しいUIテーマ、素早いデータ同期、拡張可能なプラグイン機構を備えています。

作ろうと思った理由は、自分の気に入るアプリが探しても無かったからです。Dropboxによるファイル同期は遅いし重い、Wiki系のウェブサービスはオフラインで使えず大量のタブに埋もれる、マルチプラットフォームに対応していない、デザインがかっこよくない…そういった個人的な不満を解決するために作りました。つまりそれはシンプルで、美しいUIで、Markdownで書ければよくて、すばやく同期されて、オフラインでも使えるものです。

月額 $4.99 または 年額 $49.90で提供中です。60日間のフリートライアルがあります。この価格設定にした理由はこちらに書きました。ぜひお試しを。

※ 現在は英語版のみです。ローカライズ版を出す予定はありません。

少しずつですが順調に契約数が伸びていて、とうとう6月の売上が約4万円になりました。これは今住んでいるマンションの家賃の半分に相当します。家計が助かる!ありがとうございます!

Stripeの売上レポート

今までの売上最高記録は2016年12月でした。この月は公式リリースのちょうど二ヶ月後で、β時期に集めたユーザさんが一度に契約して下さったものです。そこから一旦落ち着いたものの、ついに盛り返しました。

4月時点で30人だった契約者数が45人になりました。1.5倍です。これまでに解約した人はたったの2人です。驚きの継続率。そして年間契約者の割合も大きいです。全体で20人もいます。詳しく見て行きましょう。

一度は課金したのに、その後解約してしまった二人はどういったユーザだったのでしょうか。そこには明確な共通点がありました。それは、すごく熱心にフィードバックをくださっていたという点です。

サービスに対して意見を沢山もっているという事はありがたい一方で、現状に満足していないという点を示唆しています。「もっとここはこうしてくれ」「ここは何でこうなってるの」と色々と思う所があるようです。しかし僕はアプリをシンプルに保ちたいので、ほとんどの意見を保留にしたり断ったりしました。つまり解約された理由は作者との方向性の違いです。

僕は本当に必要だと感じた機能しか付けません。この考えはBasecampのDHH氏がいみじくも明快に述べています:

You should only consider features if they’re willing to stand on the porch for three days waiting to be let in. — David Heinemeier Hansson

「3日間居座って入場待ちするぐらい彼らが望むような機能だけを検討しろ」と。そう思えなければ遠慮無くNoと言うべきです。この考えを理解してくれるユーザさんもいます。とある機能要望を断った時、メールでこのような返事をもらいました:

It makes sense to put your efforts where it will have the most impact on the user, in terms of features. If I’m going to be the only one using the change history feature, then I agree, it’s probably not worth the trouble. :) I do hope that someday this feature would be implemented, but if not it’s totally fine as your app is awesome as it is now! — Inkdrop user

ユーザに迎合せず、自分の信じるアプリ像をあくまで追い求める。そうすれば付いて来てくれる人は必ずいます。

先々月ぐらいから日本語でブログをちょくちょく更新するようにしていました。これは前回の進捗報告で書いたとおり、ユーザ獲得に向けたコンテンツマーケティングです。何かしら役に立ちそうな事を意識して書いたら、意外と反応があって楽しいです。

すると、MAUに分かりやすい変化がありました。

ここ半年のMAU (Mixpanel)

いままでずっとUSがトップの割合を占めていたのが、6月で逆転しました。これはブログ効果で間違いないでしょう。続けるべきですね。英語でも積極的に書いていこうと思います。

以上の考察から、少数のヘビーユーザが支えるサービスという構図は今も変わらないようです。これは僕の目指している「1000人のユーザが一人を食わせる」という方向性と合致しています。

IT業界が多様化して、消費者には沢山の選択肢が与えられています。その結果「Winner Takes All」の法則は必ずしも当てはまらなくなってきました。例えば写真サービスを取ってもFlickr一人勝ちではないでしょう。シマウマが地面の草を食べてキリンが高いところの葉を食べる関係がそこにはあります。

個人としてその中で生き残るには、ニッチの領域で自分の価値観を大事にして、それに共感してくれる人を集めることが一つの方法だと思います。幸いにも継続課金モデルがウェブサービス以外のアプリでも受け入れられつつあります。それは大量のユーザを無理に集めなくてもビジネスが継続して成立する可能性を示しています。ネットによって広告に頼らなくても影響力が得られるようになった今、1000人のファンを集めることは大変ですが不可能ではないでしょう。

この「1000人が一人を食わせるモデル」は、これから増えてロールモデルになると予想しています。Inkdropを実験台にして、アーティストやブロガーだけでなくサービスのクリエイターでもそのモデルが可能だと言うことを示します。応援よろしくお願いします!

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Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

By Takuya Matsuyama
AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

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AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった こんにちは、TAKUYAです。日本語ではお久しぶりです。僕はInkdropというプレーンテキストのMarkdownノートアプリを、デスクトップとモバイル向けにマルチプラットフォームで提供するSaaSとして、かれこれ9年にわたり開発運営しています。 最近、その開発にClaude Codeを導入しました。エージェンティックコーディングを可能にするCLIのAIツールです。 最初の試行は失敗に終わったものの、徐々に自分のワークフローに馴染ませることができました。そして先日、アプリ開発がまた「楽しい」と感じられるようになったのです。これは予想外でした。 本稿では、自分がエージェンティック・コーディングをワークフローに取り入れた方法と、それが個人開発への視点をどう変えたかを共有します。 * 翻訳元記事(英語): Agentic coding made programming fun again 自分のアプリに技術的負債が山ほどあった ご想像のとおり、9年も続くサービスをメンテするのは本当に大変です。 初期の頃は新機能の追加も簡単で

By Takuya Matsuyama
個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ InkdropというMarkdownノートアプリを作り続けて7年になる。 お陰さまでその売上でずっと生活できている。 これまで個人開発でどう継続していくかについて「ユーザの退会理由をあれこれ考えない」とか「アプリの売上目標を立てるのをやめました」とか、ビジネス面あるいはメンタル面からいろいろ書いてきた。 今回は、技術面にフォーカスして、どう継続して開発していくかについてシェアしたい。 TL;DR * 最初はとにかく最速でリリースする事を最優先する * 迷ったら「ときめく方」を選べ * 程よいところで切り上げて開発を進める * 使っているモジュールがdeprecatedされるなんてザラだと覚悟する * 古いから悪いとは限らない * シンプルにしていく * 老舗から継続の秘訣を学ぶ * 運ゲー要素は排除しきれない 最初はとにかく最速でリリースする事を目標に技術選定する 開発計画とビジネス計画は切っても切り離せない。 コーディングに傾倒するあまり完璧主義に陥って結局リリース出来ないまま頓挫してしまう個人開発者は多い

By Takuya Matsuyama
子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日 どうもTAKUYAです。 久しぶりに生活まわりの事を書きたい。自分はInkdropというMarkdownノートアプリを売って生きている。 子供も無事順調に成長しており、あと数ヶ月で3歳になるというところで、イヤイヤ期もやっと終わりが見えてきた。 生活パターンもなんとなく定着しつつあるので、ここで一旦どんなルーティンなのか書き出してみる。ちなみに当方今年で40歳。 平日の1日の流れ * 06:30 妻と子供起床、朝食 * 07:10–30 俺起床、朝食 * 07:40 布団を畳んで子供を着替えさせる。妻はその間に化粧や通勤の準備 * 08:00 ストレッチと軽い筋トレ(腕立て50回、スクワット100回) * 08:10 妻と子供を見送る。15分前後瞑想 * 08:30 散歩 * 09:00 作業開始(カフェまたは家) * 11:00 昼飯 * 12:00 ダラダラする * 12:30 作業再開(だいたい家)

By Takuya Matsuyama