1人でデスクトップとモバイル両方で動いて同期するアプリをどうやって作ったか

1人でデスクトップとモバイル両方で動いて同期するアプリをどうやって作ったか

1人でデスクトップとモバイル両対応でデータ同期するアプリをどうやって作ったか

5プラットフォームで動くSaaSを個人で開発するためにやったこと

こんにちは、個人アプリ作家のTAKUYAです。InkdropというクロスプラットフォームなMarkdownノートアプリを1人で開発しています。このアプリはmacOS、Linux、Windows、Android、iOSで動作します。ご存知かもしれませんが、この5プラットフォームにアプリを対応させるのは簡単ではありません。しかしながらパワフルなフレームワークを活用すれば、それも不可能ではありません。それらに頼るだけでなく、プロジェクトを持続可能に保つための開発戦略も必要となります。本記事では、僕がこれまでどのようにして開発して来たのかシェアしたいと思います。

あなたは1人で開発しているのではない

クロスプラットフォームなアプリの開発は、往々にして多くの予測不能かつ再現不能な問題を伴います。自分の環境では正しく動いていた機能が、他の環境では思うように動かない。例えば、最近僕もそういう問題を経験しましたが、それは起動直後にアプリの画面が空白になるというものでした。僕は事前に入念にベータ配信を重ねてテストをしていましたが、それでもこの問題は見つけられませんでした。しかし、ユーザさんの素早い報告とやりとりのおかげで、24時間以内に解決する事が出来ました。

個人開発者は、実際には1人で開発しているのではありません。なぜなら、いつでもこのようにユーザに助けを求めることが出来るからです。正直に誠実に、今何を取り組んでいて何に困っているのか述べましょう。あなたのアプリを楽しんでいるユーザは、基本的にあなたのアプリの成功を願っていますし、喜んで助けようとしてくれます。ユーザの助けに頼ることはとても重要です。あなたのリソースはとても限られているからです。Inkdropもユーザの皆さんの協力がなければ、ここまでの完成度には到底辿り着けませんでした。Inkdropはプログラマ向けなので、このフォーラムでのケースのように、ユーザ側から問題を解決するためのコード例まで示してくれることもあります。その上、僕の手元で再現できないバグを修正するために、数時間も付き合って下さることもしばしばあります。このようなユーザとの緊密で双方向なコミュニケーションは、大企業に対抗できる大きな優位性でしょう。

Inkdropのユーザフォーラム

CouchDB & PouchDB: シームレスなデータ同期とオフライン対応

Apache CouchDBドキュメント指向データベース(NoSQL)で、HTTPベースのJSON APIを備えていて、かつマルチマスタで同期出来ます。FauxtonというウェブGUIがあり、データベースやドキュメントを簡単に管理できます。PouchDBはこのCouchDBにインスパイアされたJavaScript製のデータベースで、同様にCouchDBと同期出来ます。まず僕はデスクトップ版に取り掛かり、モバイル版は特に気にかけませんでした。というのも、PouchDBはJavaScript製で既にいくつかの選択肢が用意されていたので、大丈夫だろうと想定していました。もしうまく動かなければ、自分でモジュールを組めばいいと考えていました。CouchDBのAPIがRESTfulでシンプルだからです。

なぜ僕が他のfirebaseなどのPaaS (Platform-as-a-Service)ではなくCouchDBを選んだかというと、クライアント側での柔軟なインデクシングを必要としていたからです。3年前、僕がこのプロジェクトを始めた当時、firestoreは要件を満たすほど柔軟ではありませんでした。PouchDBはクライアントでのMapReduceに対応しており、全文検索用のモジュールもあったので有望だと判断しました。更に、CloudantというCouchDB用のDBaaSがあったのも決め手になりました。Cloudantはスループットやストレージサイズを柔軟に変えられます。サーバ運用は出来るだけ避けたかったので、最初の頃はこれを採用しました。現在はAWS EC2上でCouchDBを運用しています。理由は、BtoCサービスほど負荷が不安定だったり大きくないという事が分かったのと、Cloudantは重くて、IBM Cloud上での管理が煩雑さったためです。

今のところ、CouchDBとPouchDBの組み合わせは総じて満足しています。

クロスプラットフォームなフレームワーク

5プラットフォームで動かすために、デスクトップOS (Windows/Linux/macOS)ではElectronを、モバイルOS (iOS/Android)ではReact Nativeを採用しました。双方のバージョンでReactJSとReduxを使用しています。これらのフレームワークのおかげで、基本的にロジックは全部JavaScriptで組めましたし、デスクトップとモバイル間で多くのコードベースを共通化させる事が出来ました。

成功しているプロダクトから学ぶ

Kitematicの美しいUI

当時、ElectronとReactJSでアプリを組むのは初めてで知見がありませんでした。でも出来るだけ早くアプリを世に出してアイデアを検証したいと考えていました。そこで、美しいUIや拡張可能なアーキテクチャを組むための現時点でのベストプラクティスを手っ取り早く学ぶために、既存のオープンソースプロジェクトであるAtom EditorKitematicに着目しました。これらのプロジェクトはGPLライセンスではなかったので、コードベースを自分のアプリに再利用出来る事を知りました。ありがとう、GitHubとDocker。

Kitematicのリポジトリをフォークする所から始めました。この方法は多くの良い実践を学べて、多くの問題を事前に回避できましたが、1つだけ欠点がありました — それは、技術的負債も一緒について来るという事です。技術的負債は多くのプロジェクトに大体あるものなのでしょうがないです。例えば、Kitematicはfluxアーキテクチャの実装としてAltJSを採用していました。しかしAltJSは僕がInkdropに着手した後、程なくして更新が止まってしまいました。それによって、Reactを最新版の16にアップグレードできずにいました。最終的にはAltJSをReduxと完全に置き換える事で対処しました。しかしながら、こういう事態は予期できないものです。Kitematic自身にとっても予想外だったでしょう。こういったプロジェクトから学べることは沢山あります。なので、僕がもしまた似たような状況になったら、進んで同じアプローチを取るでしょう。

また、Atomのコードを沢山お借りして、プラグイン機構、キーマップのカスタマイズ機能、テーマ機能などを実装しました。彼らのコードは読む度に発見があり驚きに満ちていました。これらを1人でイチから実装するなんて事は、到底できなかったでしょう。

コードベースを共通化する

デスクトップとモバイル版は両方共PouchDB、ReactとReduxで組んであるので、データモデルやRedux Action, Reducerなどプラットフォームに依存しない多くの部分を共通化出来ました。そのお陰で、両方を同時に効率よくメンテできるようになりました。

UIコンポーネント群はプラットフォームごとに組む

UIはデスクトップとモバイル版で分けて組みました。そもそも、まず最初にデスクトップ版から開発していましたし、自分が将来モバイル版をどうやって組むのかすら考えていませんでした。これは個人的な意見ですが、UIコンポーネント群をデスクトップとモバイル版で共有するのはあまり良い戦略ではありません(とりわけInkdropでは)。なぜなら、react-native-webのようなライブラリは基本的にモバイルファーストで、デスクトップにはフォーカスしていません。なので、もしアプリのUIがとてもシンプルで、主なターゲットがモバイルユーザである場合に限り有効な戦略だと思います。

デスクトップ版はSemantic UI、モバイル版はNative Baseを使って美しいUIとテーマ対応を実現しました。React Nativeに関する開発の知見はこちらの記事に書きました:

React Native製アプリのクオリティを上げるために工夫した事
InkdropというMarkdownノートアプリを一人で作っているTAKUYAです。最近、React Nativeを使って、iOS版とAndroid版の新しいバージョンをリリースしました。React…

PouchDBをReact Nativeで動かすための四苦八苦

PouchDBはブラウザやElectron製アプリでは問題なく動作します。しかしReact Nativeとなるといくつか問題があります — pouchdb-react-nativeを使うと、AsyncStorageをアダプタにして動作するのでパフォーマンスが良くありませんでした。そこでreact-native-sqlite-2pouchdb-adapter-react-native-sqliteを作って、SQLiteをアダプタとして動作するようにしました。もう1つの問題は、attachmentsを上手く取り扱えないことです。これに関しては、PouchDBのコアモジュールを改造して対処しました:

PouchDBを改造してReact Nativeでも動くようにした - Qiita
gt; 本稿は[Hacking PouchDB to Use It on React Native](https://dev.to/craftzdog/hacking-pouchdb-to-use-on-react-native-1...

SQLite3を使ったローカル全文検索

初期の頃はpouchdb-quick-searchを使ってローカルでの全文検索を実装していましたが、特にAndroidでパフォーマンスが良くありませんでした。なのでpouchdb-quick-searchの実装を参考にして、SQLiteの全文検索機能を使ったFTSモジュールを自分で組みました。

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Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

By Takuya Matsuyama
AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった こんにちは、TAKUYAです。日本語ではお久しぶりです。僕はInkdropというプレーンテキストのMarkdownノートアプリを、デスクトップとモバイル向けにマルチプラットフォームで提供するSaaSとして、かれこれ9年にわたり開発運営しています。 最近、その開発にClaude Codeを導入しました。エージェンティックコーディングを可能にするCLIのAIツールです。 最初の試行は失敗に終わったものの、徐々に自分のワークフローに馴染ませることができました。そして先日、アプリ開発がまた「楽しい」と感じられるようになったのです。これは予想外でした。 本稿では、自分がエージェンティック・コーディングをワークフローに取り入れた方法と、それが個人開発への視点をどう変えたかを共有します。 * 翻訳元記事(英語): Agentic coding made programming fun again 自分のアプリに技術的負債が山ほどあった ご想像のとおり、9年も続くサービスをメンテするのは本当に大変です。 初期の頃は新機能の追加も簡単で

By Takuya Matsuyama
個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ InkdropというMarkdownノートアプリを作り続けて7年になる。 お陰さまでその売上でずっと生活できている。 これまで個人開発でどう継続していくかについて「ユーザの退会理由をあれこれ考えない」とか「アプリの売上目標を立てるのをやめました」とか、ビジネス面あるいはメンタル面からいろいろ書いてきた。 今回は、技術面にフォーカスして、どう継続して開発していくかについてシェアしたい。 TL;DR * 最初はとにかく最速でリリースする事を最優先する * 迷ったら「ときめく方」を選べ * 程よいところで切り上げて開発を進める * 使っているモジュールがdeprecatedされるなんてザラだと覚悟する * 古いから悪いとは限らない * シンプルにしていく * 老舗から継続の秘訣を学ぶ * 運ゲー要素は排除しきれない 最初はとにかく最速でリリースする事を目標に技術選定する 開発計画とビジネス計画は切っても切り離せない。 コーディングに傾倒するあまり完璧主義に陥って結局リリース出来ないまま頓挫してしまう個人開発者は多い

By Takuya Matsuyama
子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日 どうもTAKUYAです。 久しぶりに生活まわりの事を書きたい。自分はInkdropというMarkdownノートアプリを売って生きている。 子供も無事順調に成長しており、あと数ヶ月で3歳になるというところで、イヤイヤ期もやっと終わりが見えてきた。 生活パターンもなんとなく定着しつつあるので、ここで一旦どんなルーティンなのか書き出してみる。ちなみに当方今年で40歳。 平日の1日の流れ * 06:30 妻と子供起床、朝食 * 07:10–30 俺起床、朝食 * 07:40 布団を畳んで子供を着替えさせる。妻はその間に化粧や通勤の準備 * 08:00 ストレッチと軽い筋トレ(腕立て50回、スクワット100回) * 08:10 妻と子供を見送る。15分前後瞑想 * 08:30 散歩 * 09:00 作業開始(カフェまたは家) * 11:00 昼飯 * 12:00 ダラダラする * 12:30 作業再開(だいたい家)

By Takuya Matsuyama