月5ドルの自作サービスで最初の500人を集めるまでにやったこと

月5ドルの自作サービスで最初の500人を集めるまでにやったこと

月5ドルの自作サービスで最初の500人を集めるまでにやったこと

外部メディアに頼らない集客、ユーザサポートの効率化、ロイヤルティの上げ方、ファンの作り方、マイペースに続けるコツなど

※ 本稿は「How I’ve Attracted The First 500 Paid Users For My SaaS That Costs $5/mo」の日本語版です。

※ 追記: 元記事がHacker Newsで話題1位になりました。Thank you!

Hacker News

どうも、TAKUYAです。InkdropというMarkdownノートアプリを一人で作っています。現在600人の課金ユーザがいて、9月の売上は38万円でした。価格は $4.99/月 または $49.9/年 です。英語で提供しているのでいろんな国から使って頂いています。お陰様で、今年はフリーランスとしての仕事は一度もやっていません。楽しい。サポート本当にありがとうございます。

本稿では、どうやって一人でここまでサービスを成長させたかについて、惜しまずシェアしたいと思います。あなたのサービスの参考になれば幸いです。もし立ち上げ期にやったことに興味がある方は以下の記事を参照ください:

Inkdrop
  1. 大きなブログメディアに掲載される必要はない
  2. 解約率がとても低い理由はユーザのこだわり
  3. ユーザフォーラム運営に時間をかける
  4. ロードマップを公開する
  5. 課金ユーザを特別扱いする
  6. 戦略を語る
  7. 競合をすべて無視する
  8. 不完全を受け入れる
  9. (おまけ) 逆輸入的に見せる

Inkdropは2年前に正式ローンチしました。初期ユーザはベータ時代に集めました。今のところ大きなメディアに紹介されたことは一度もありません。おそらく、当初からEvernoteをはじめ似ているアプリは沢山あったからでしょう。広告も一度も使ったことがありません。それらには頼らず、専ら既存ユーザをより喜ばせることに集中しました。並行して、自分のプロダクトやフリーランス生活での上手く行った戦略をブログに書き綴りました。これらの活動が功を奏して徐々に口コミを生みました。

つまりエンゲージメントはほぼ自分自身から作り出しました。その成長は穏やかで安定していて、振り返れば大きなメディアでバズらせるよりもずっと良いやり方でした。バズるとユーザの流入数が超短期的に跳ね上がります。そしてサーバ負荷を急激に高める上に、捌ききれない量の問い合わせが殺到します。サービスは不安定になり、ユーザサポートはボロボロになっていたでしょう。

成果を焦らなくて良いのです。これはイグジットに向かって奔走するスタートアップではないのですから。

ゆっくりやろうや
月間の退会した課金ユーザ数の推移。数えるほどしかいない。

顧客はいったん継続課金を開始すると、特に大きな問題に遭遇しない限り概ね何ヶ月も継続して利用する傾向があります。最近のチャーンレート(解約率)は2~3%で、驚くほど低いものでした。ターゲット層である開発者はこだわりが強いため、彼らは熱心に他のMarkdownエディタを何年もかけていろいろ試しています。そして僕のアプリを最終的に選択しました。だからそう簡単に他に移ったり辞めないのでしょう。ちょうど彼のように:

Your application is a life changer. I’ve tried numerous markdown based applications over the years and I’m so pleased to finally find a keeper! Awesome work! — James Lilliott

しかし彼らは常によりよいツールを探し求めています。僕のように、欲しいものを自分自身で作る人がいるぐらいです。ここで安住せず、常にアプリをフレッシュに保つ必要があります。

ユーザフォーラムの統計情報

立ち上げ期は特にユーザサポートに力を入れるべきだと以前にも書きました。それは成長期になっても変わりません。GitHubをフォーラム代わりに使っていましたが、それをやめてDiscourseに乗り換えました。オープンソースで開発されているディスカッションプラットフォームです。高いカスタマイズ性とREST APIのサポートがあります。InkdropとそれをSSO(シングル・サインオン)で統合して、サービス上の誰が投稿しているのか分かるようにしました。今のところ、264個のトピックと1,367個のコメントが投稿されています。そのうち620個のコメントが僕自身です。ほぼすべて海外ユーザとのやりとりです。

このようにユーザフォーラムの運営に多くの時間を割くことは、無駄ではありません。投稿の数が増えるにつれて、それはFAQとして機能するようになり、また自分の意見・考えの記録になります。ユーザは疑問や提案、質問があったらまずググります。そしてフォーラムの該当トピックにたどり着きます — まるでStackoverflowのように。なので彼らはすぐに回答を得ることができるし、僕は同じ回答を何度もする必要がなくなります。最終的には手間が減って他の事に沢山集中できるようになる訳です。

これは個人開発プロジェクトなので、ユーザのみなさんがサービス終了を危惧するのは仕方のないことです。実際は大企業のサービスだって充分起こり得ることなんですが(ヤフーのkazocの終了は記憶に新しいですね)。しかしその不安を少しでも和らげる方法があります。それはサービスの未来、次に何が来るのかについて語ることです。毎年、僕は以下のようにロードマップを掲げています:

ロードマップを公開するのはサービス購読をより長続きさせる効果もあるようです。彼のように、欲しい機能が実装されるまで期待して待てるからです:

Inkdrop has been my go-to note app for some time now and I’m super pumped to hear about the new features. — Luke Stacey, from The Roadmap vol.3のコメントより

それはアプリそのものをより長生きさせます。だってこういう期待のコメントは僕のモチベーションになりますから :)

秘密主義をやめましょう。プロダクトについて考えている事をどんどん表に出すのです。

先述の通り、僕は既存ユーザをより幸せにすることに集中しました。そしてそれがサービスの成長に繋がりました。では、ユーザのロイヤルティ(忠誠心)を高めるために具体的にやったことをいくつかご紹介します。

フォーラムをカスタマイズして、課金ユーザにのみ星型のバッジをアイコンに表示するようにしました。そうすれば課金ユーザかトライヤル中かがひと目で見分けられて、星のついている人を優先的に取り扱えます(結局は全部の投稿にすぐ返信するのですが)。

フォーラムには課金ユーザしか入れないカテゴリが設けてあります。そこで次のロードマップについて意見を募って議論しました。これは彼らが特別だと感じてもらえるとても良い方法です。その上、彼らは既にコンセプトを理解しているので、とても有意義に議論できます。

新しいモバイル版を作っていた時、課金ユーザにだけベータテストにお誘いしました。彼らはその扱いをとても楽しんでいるように見えましたし、沢山のフィードバックをくれました。驚いたのは、ベータテストに参加するためにトライヤルを手動で終わらせて課金ユーザになった人が数人いたことです。

個人開発では、作者自身もプロダクトの一部です。作者が多くの人に知られれば、プロダクトも使われる機会が増えます。ブログはあなたのプロダクトを使いそうな人にリーチするための強力な方法です。はい、正直に言うとこの記事も僕のコンテンツ・マーケティングの一環です。Brian Clarkが言うように、なにか「教えられること」を書くのです:

These days, people want to learn before they buy, be educated instead of pitched — Brian Clark

「ここ最近、人々は買う前に学びを求める。売り文句よりも教育を求める。」 — 僕は彼が正しいと思います。僕はモノを売りつけられるのが嫌いです。セールスマンの話は聞きたくないし、プロモーションの記事や広告も見たくありません。それらの情報は役に立たないどころか、本当かどうかすら疑わしいものです。でも僕を幸せにしてくれる人は信じます。彼が言うように、そういう人は一定数います。あなたはどうですか?

何かを教えることは人を幸せにする手近な方法です。有益だからです。あなたは人に教えられる何かを持っているはずです。でももし「ちょっとした参考になる事」よりも、「戦略」について書けたなら尚いいです。戦略について語れる人はそう多くはいないからです。Qiitaを見てください。JavaScriptのコーディングで特定の問題を解決する方法について書ける人は沢山いますよね。でも例えば「フリーランスの報酬額の見積もり方 (How to price yourself as a freelance developer)」という記事はそれよりももっと価値があるでしょう。実際この記事(英語)では1.4万ビューを得ました。

繰り返しますが、作者はプロダクトの一部です。なので、ブログの記事は他の誰かではなくあなた自身のストーリーである必要があります。すると記事を読んだ人は、あなたに興味を持ちます。数人のユーザさんが言っていました — 彼らは僕のプロダクトというよりもむしろ僕自身を応援したいのだと。

自身のストーリーを語ることは、プロダクトの価値を高めます。

競合を気にする必要はありません。時間の無駄です。あなたは既に目的地を知っているからです。たとえ自分のサービスの機能を他に真似されたとしても、別に気にする必要はありません。なぜならプロダクトについて最も理解しているのはあなた自身であり、それがどう働いてなぜうまく行くのかも一番熟知しているからです。

もし競合を気にしてばかりいると、彼らに影響を受けてしまうし、彼らに負けないことが目的になってしまいます。最初のモチベーションを思い出してください。それはもともと自分の問題を解決するために作ったものだし、別に相手を打ち負かすために作ったのではありません。競合サービスも同様に、彼ら自身が抱えていた問題を解決するのがコンセプトなはずです。僕らは共存できます。ニッチで潰し合っても何も残りません。

みんなはどのツールがベストか語るのが好きです。でもそれはあくまでその人の観点での評価です。人はそれぞれ違う問題や要求を持っています。あなたのターゲットは、あなたと同じ問題を抱えている人です。だから周りなんか気にせず進みましょう。

プロダクトはまるで生き物みたいです。いつまでも完成しません。どんどん育つほど、やることも増えていきます。まだ完璧じゃないと思っていても、区切りをつけてリリースしましょう。なぜならリリースしてみないと何もわからないからです。リリースするたびに、いつも何かしらユーザから予期せぬ発見が得られます。

今進んでいる道は山あり谷ありです。その中で、例えば大きなバグを見落としていて、それが売上の低下につながることだってあるかもしれません。僕がちょうど最近経験したことです。でもそれはアプリがより信頼(reliable)できるようにするための必要なプロセスだったと考えています。人は完璧ではありません。プロダクトもそうです。恐れずにリリースして、何が起こるのかを観察しましょう。

これは日本でのみ有効な手法です。Inkdropには日本語版がなく、基本は英語での提供です。そして実際に沢山の海外の方々に使って頂いています。この事実は、実は日本では想像以上に高く評価されるようです。

せっかくインターネットで世界中と繋がっているので、もしサービスが地域依存していないのならまず英語で出してみるといいかもしれません。そしてある程度の成果を得たら、「1人の日本人が海外に向けてサービスを作って提供している」というレッテルを利用して日本語で情報発信するのです。まずそういう事をしている人がとても少ないので、単純に面白がってもらえます。やはり同じ日本人が海外に向けて活動していると聞くと、応援したくなりますよね。するとそれが口コミになって、日本からのユーザ登録が増えます。

これは結果論ですが、再現性は高いと思います。よければ真似してみてください。

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過集中を避けるための働き方とルーティン(二児の父ver.)

過集中を避けるための働き方とルーティン(二児の父ver.)

どうもTAKUYAです。 先日書いた通り、最近個人開発を頑張りすぎて体を壊してしまいました。 その原因の一つが過集中癖です。自分はもともと何かに集中すると周りが見えなくなる傾向があり、それがたまに私生活にも影響を及ぼします。同じ失敗を繰り返さないためにも、ちょっと働き方を再設計したいと思います。 働き方に対して他人の指摘をアテにしない 自分のようなフリーランサーまたは自作サービスで生計を立てている人は、時間の使い方を自分で自由に決められます。その反面、どこまでも極端な働き方が出来てしまい、それを指摘したり止めてくれる人がいないという欠点もあります。自分には妻がいますが、全く違う業界なので自分の作業ペースがどのようなものか具体的に把握できません。 「疲れた!」と言えば「休んだら?」と言ってくれますが、働き方やペース配分などにまで口は出しません。なので、他人のストップサインはアテに出来ません。 (心理カウンセラーの可能性を別途検討中) 最近子供が生まれたので厳密なルーティン実行は出来ない 一日を時間単位・分単位で区切ってルーティンを組むのは気持ちがいいですよね。僕もそうしたい

By Takuya Matsuyama
なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

どうもTAKUYAです。最近、個人開発を頑張りすぎて体調を崩してしまいました。アトピーが猛烈に悪化して、QoLが著しく下がってしまいました。まだ療養中ですが、毎日1万歩以上歩いて、徐々に回復しつつあります。 この過ちを繰り返さないためにも、自分は一体何が原因で頑張りすぎてしまうのか?という事について深堀りして考えてみたいと思います。また、個人開発におけるメンタルヘルスはあまり語られていないトピックだと思います。本記事が、同じように仕事を頑張りすぎてしまう人の助けになれば幸いです。 TL;DR * なんとなく続けていたソフト開発が自分を救った * 原体験が歪んだモチベーションを生んでしまった * 親が引くほどの過集中癖がある * 生得的な直せないバグと考えることにする * アプリの成功に関係なく、自分をあるがままに受け入れる * 挫折しないのは、なんだかんだで前向きだから * ユーザさんから「休め!」と叱咤された * 人生は長い。個人開発なんかで死ぬな 自己の原体験について振り返ってみる 個人開発だけで生活するようになって、かれこれ8年ぐらいが経ちます。こう

By Takuya Matsuyama
ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

どうもTAKUYAです。個人開発をしていてアプリの知名度が上がってくると、作者個人(あるいはサイト管理人)を狙った攻撃というのをたまに受けます。つい先日も、怖すぎるメールを受け取ったのでシェアします。 件名: Cookie consent prevents platform access Hello, I cannot access use the store. The cookie consent notice keeps appearing and nothing happens once I approve or try to close it, so I’m unable to interact with the website. Please provide guidance on

By Takuya Matsuyama
万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

どうもTAKUYAです。大学の入学前に免許を取って以来ずっとペーパードライバーで、都市生活では出来る限り運転は避ける生活を送っていた。事故を起こせば人を◯してしまう可能性もある代物を日常的に運転するなんて考えられなかった。 そんな自分に転機が訪れたのは、結婚して大阪に戻った事と、子供ができた事、そしてアウトドアに興味を持った事だ。大阪近辺だと箕面とか野勢、神戸、丹波篠山などが日帰りでドライブしやすい距離だ。それで、恐る恐るタイムズのカーシェアで時々ではあるが運転するようになった。 他の車も生きた人間が運転しているという驚き まず運転していて気づいたのは、他の車にも生きた人間が運転していると言う点だ。そんなのは当たり前だろと思うかもしれないが、結構新鮮な発見だった。Grand Theft Autoなどの現代をモチーフにしたゲームをプレイすれば分かるが、NPCの車の動きは鈍臭いのでガンガンぶつかる。プレイヤーの進行を予測した動きなどしないからだ。 しかし現実では相手も事故りたくないので、お互いに動きを読み合い、譲り合って運転する。ルードな運転手もたまにいるものの、どちらかがよっぽ

By Takuya Matsuyama