書いて、歩け!なぜノートアプリはシンプルで充分なのか

書いて、歩け!なぜノートアプリはシンプルで充分なのか

どうもTAKUYAです。今回はノートやメモから新しい発想を生むための考え方についてシェアします。

自分はシンプルさをウリにした開発者向けのMarkdownアプリInkdropを作っています。なので、どうしても「ノートアプリの作者」としてのポジショントークが含まれてしまいますが、逆に言えば、「ノートアプリを約10年間作り続けてきた人間が、どうやってアイデアを生み出しているのか」 という実際的な体験談として読んでもらえれば幸いです。

結論から言うと、僕は「アプリ上でノート同士を連携させる必要はない。繋げるのはあなたの脳だ」と考えています。本稿では、ノートアプリの機能に溺れずユニークなアイデアを考え出すために僕が実践している事をシェアします。

TL;DR

  • ノート整理に時間をかけるな。グループ化で充分だ
  • すごい人はアイデアが「降りてくる」のを待つ
  • プログラミング × 料理動画 という有機的な掛け合わせ
  • ノートは「忘れる」ために書く
  • 歩け!

ノート整理に時間をかけるな。グループ化で充分だ

巷ではZettelkastenなどが流行っているようですね。これはドイツの社会学者 Niklas Luhmann が考案した、ノートを相互にリンクさせてネットワーク化する情報管理システムです。この手法を前提に設計されたアプリも数多く登場しています。謳い文句としてよく「第二の脳(Second Brain)」と言われています。

NiklasはZettelkastenを使ってクオリティの高い本や学術論文を大量に発表したそうです。つまりこの手法は膨大な知識を体系化し、再構築する必要がある「学者・研究者」にとってとても強力だと言えましょう。

一方で拙Inkdropは、Backlink機能こそあれど、「情報の相互接続」を主眼には置いていません。なぜなら、日々のサービス開発やコンテンツ制作の際に必要なのは「知識の厳密な体系化」よりも 「瞬間的なひらめき」や「課題解決の糸口」 だからです。

そんな開発者やクリエイターにとって、複雑なネットワーク管理は時としてオーバーエンジニアリングになりかねません。それよりも、作業中にぶち当たった問題やふっと思いついたアイデア、参考になりそうな情報の断片などを瞬時にスラスラとメモできる 「書き味」の方が重要 になります。だから、ノートの整理はシンプルにノートブックによる木構造(グループ化)で充分なのです。

ノートアプリはよく一括りにされがちですが、しっかり考えて目的に合ったコンセプトのアプリを選びましょう。

すごい人はアイデアが「降りてくる」のを待つ

大学院にいた頃の話です。ある日、准教授(現教授)が息抜きがてら学生に絡みに来て「アイデアが降りてくるのを待ってる」と話していたのを今でも覚えています。その時は、「こんな頭のいい人でも、そんな右脳的で感覚的な事を言うんだな」と思ったものです。しかし、今ならその意味がとても良くわかります。机に向かってノートと睨めっこしていても、どんどん煮詰まるだけです。なぜなら、演繹的に論理を積み上げて導ける答えというのは、「まぁそうだよね。で?」という感じの、誰でも思いつくような似たり寄ったりのものになりがちだからです。

眼の前に立ちはだかる分厚い壁を突破出来るような面白い発想や解決法は、ある瞬間に 「突如として降りてくる」 ものです。ノートアプリをこねくり回して女真転生の悪魔合体ように新しいアイデアを作り出すことは出来ません。

Akuma Gattai
引用元: 真・女神転生@wiki

プログラミング × 料理動画 という有機的な掛け合わせ

自分はアプリのマーケティングのためにYouTubeのdevaslifeというチャンネルで動画をアップロードしています。チャンネルを始めて2年間ぐらいは全然うまく行きませんでした。しかし次の動画を投稿すると、たちまち100万回再生を突破しました。

結果的にチャンネル登録者を20万人以上集めることに成功しました。
そのヒット要因は、プログラミング動画に料理動画のフォーマットと取り入れた点です。具体的には、以下のような「料理動画の構成」をプログラミングに持ち込みました。

  • 完成形を最初に見せる: 盛り付けを見て食欲をそそるように、まず成果物を見せる。
  • 無駄な解説を削ぎ落とす: 饒舌な喋りは不要。包丁の音を楽しむように、タイピング音とコードで視聴者に語りかける。
  • 「作るプロセス」そのものをエンタメにする: パソコンの画面だけでなく、現実の「開発風景」も色々な角度から映す。

この一見突拍子もない掛け合わせの発想は、「情報の体系化」を主眼においた論理ネットワークからは生まれません。論理的な組み合わせで出てきそうなのは、例えば「最新のフレームワーク解説」や「エンジニアのキャリア論」といった所でしょう。それは既に多くの人がやっている事ですね。

ノートは「忘れる」ために書く

ではどのようにノートを活用すれば、ユニークな発想が生まれるのでしょうか?
その答えは、「とにかく書き散らかす」事だと思います。以下は、僕のYouTubeのネタに関するメモです。ご覧のように、タイトルしか無かったり、書きかけで結局日の目を見なかったアイデアが沢山あります。

Inkdropで書いたアイデアノート

しかしノートにおいて書き上げることは重要ではありません。「書くこと自体」に意義があるのです。

「書く」という行為は、脳に「これは重要な情報だ」というアンカー(フック)を打ち込む作業です。そして一度書き出したら、脳の外に追い出して、忘れてしまいましょう。以下のステップを日常的に繰り返すのです:

  1. 書き散らかす(脳に刻む)
  2. 忘れる(ワーキングメモリを解放する)
  3. リラックスする(潜在意識に任せる)

情報を溜め込み、一度手放すことで、脳の潜在意識が勝手に働き始めます。
ずっとうんうん唸ってOverthinkingするのではなく、顕在意識は出来る限り空っぽの状態を保つのです。すると、ふとした瞬間にアイデアやThoughtsが「降ってきやすく」なります。降ってきたら、また書き散らかし、メモリを解放し、また待つ・・を繰り返します。

ここではYouTubeを例に挙げましたが、技術ノートの取り方は以下で詳しく解説していますので併せてお読みください。

https://www.inkdrop.app/note-taking-tips/
How to maximize your productivity with tech note-taking
The Note-Taking App with Robust Markdown Editor

何が言いたいかというと、自分の脳をもっと信じろって事です。

歩け!

おそらく最も重要なのは、ステップ3のリラックスしてアイデアの有機的接続を潜在意識に任せるところです。では、実際には何をして過ごせば良いでしょうか?
答えはシンプルです。歩きましょう。

光が丘公園 (10年ぐらい前)

コンピュータから離れて、散歩をする。シャワーを浴びる。音楽を奏でる。趣味に没頭する。あなたがリラックスできるなら何でも良いです。リラックスしている時こそ、脳のバックグラウンド処理は活発になります。

僕はInkdropを開発し始めた当時、東京の練馬区に住んでいましたが、近所の光が丘公園を何百周もしていました。早朝の朝日が木々の合間から差し込む光景、沢山のコスモスが揺れる広場、深夜に徘徊していて警備員に怪しまれたりなど、忘れがたい思い出が沢山あります。

カメラを持ち歩くのもオススメです。カメラは脳内にぐるぐると閉じこもった意識を強制的に現実世界に向けてくれる最高のデバイスです。「ああ、なんて綺麗な木漏れ日なんだ」とレンズを対象に向ける。その瞬間、「あっ、そういえばアレはこうすれば面白いんじゃないか?」とアイデアが降りてきたりします。

これが、僕がアプリ作家として実践してきた「アイデア生成術」であり、ノートアプリはシンプルでいいと考える理由です。あなたの知的生産ワークフローの参考になれば幸いです。


ここまで読んで下さりありがとうございます。拙作Inkdropは、開発者向けのMarkdown特化型ノートアプリです。多機能というより綺麗なデザインとシンプルさがウリです。もしノートアプリを探しているなら、ぜひチェックしてみて下さい。

Inkdrop - Note-taking App with Robust Markdown Editor
The Note-Taking App with Robust Markdown Editor

Read more

貫禄を捨てて愛嬌で生き延びろ!40代オッサンの生存戦略

貫禄を捨てて愛嬌で生き延びろ!40代オッサンの生存戦略

どうもTAKUYAです。 つい先週(11月19日)に誕生日を迎え、41歳になりました。40代と言うのは若い頃には想像もしなかった年代で、どう生きれば良いのかというイメージがあまり具体的に湧かない、曖昧な年齢ではないでしょうか?自分の父親を想像するも、日中はいつも仕事でいなかったのであまり参考になりません。 自分は個人開発で生計を立てていて20代、30代で積み上げて来たものが上手く実を結んだおかげで今の生活があります。育児にも、いわゆるサラリーマンよりかは柔軟に参加できていて、子供との時間も沢山取れています。ママ友も出来ました(迷惑かけっぱなしですが)。 本記事では、そんなライフスタイルを送る自分が40代で大事にしたいことについて書きたいと思います。タイトルにもある通り、結論から言うとそれは「愛嬌」だと思います。以下、中年男性の愛嬌の重要性について説明します。 TL;DR * 「貫禄が出てきたね」と言われたら注意 * 笑顔を作れ。オッサンがムスッとしてたら普通に怖い * 謙虚に振る舞え。実績を積むと周りが萎縮する * ギャップ萌えを活用しろ 「貫禄が出てきたね」と言わ

By Takuya Matsuyama
過集中を避けるための働き方とルーティン(二児の父ver.)

過集中を避けるための働き方とルーティン(二児の父ver.)

どうもTAKUYAです。 先日書いた通り、最近個人開発を頑張りすぎて体を壊してしまいました。 その原因の一つが過集中癖です。自分はもともと何かに集中すると周りが見えなくなる傾向があり、それがたまに私生活にも影響を及ぼします。同じ失敗を繰り返さないためにも、ちょっと働き方を再設計したいと思います。 働き方に対して他人の指摘をアテにしない 自分のようなフリーランサーまたは自作サービスで生計を立てている人は、時間の使い方を自分で自由に決められます。その反面、どこまでも極端な働き方が出来てしまい、それを指摘したり止めてくれる人がいないという欠点もあります。自分には妻がいますが、全く違う業界なので自分の作業ペースがどのようなものか具体的に把握できません。 「疲れた!」と言えば「休んだら?」と言ってくれますが、働き方やペース配分などにまで口は出しません。なので、他人のストップサインはアテに出来ません。 (心理カウンセラーの可能性を別途検討中) 最近子供が生まれたので厳密なルーティン実行は出来ない 一日を時間単位・分単位で区切ってルーティンを組むのは気持ちがいいですよね。僕もそうしたい

By Takuya Matsuyama
なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

どうもTAKUYAです。最近、個人開発を頑張りすぎて体調を崩してしまいました。アトピーが猛烈に悪化して、QoLが著しく下がってしまいました。まだ療養中ですが、毎日1万歩以上歩いて、徐々に回復しつつあります。 この過ちを繰り返さないためにも、自分は一体何が原因で頑張りすぎてしまうのか?という事について深堀りして考えてみたいと思います。また、個人開発におけるメンタルヘルスはあまり語られていないトピックだと思います。本記事が、同じように仕事を頑張りすぎてしまう人の助けになれば幸いです。 TL;DR * なんとなく続けていたソフト開発が自分を救った * 原体験が歪んだモチベーションを生んでしまった * 親が引くほどの過集中癖がある * 生得的な直せないバグと考えることにする * アプリの成功に関係なく、自分をあるがままに受け入れる * 挫折しないのは、なんだかんだで前向きだから * ユーザさんから「休め!」と叱咤された * 人生は長い。個人開発なんかで死ぬな 自己の原体験について振り返ってみる 個人開発だけで生活するようになって、かれこれ8年ぐらいが経ちます。こう

By Takuya Matsuyama
ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

どうもTAKUYAです。個人開発をしていてアプリの知名度が上がってくると、作者個人(あるいはサイト管理人)を狙った攻撃というのをたまに受けます。つい先日も、怖すぎるメールを受け取ったのでシェアします。 件名: Cookie consent prevents platform access Hello, I cannot access use the store. The cookie consent notice keeps appearing and nothing happens once I approve or try to close it, so I’m unable to interact with the website. Please provide guidance on

By Takuya Matsuyama