シングルタスクを極める

シングルタスクを極める

シングルタスクを極める

ビジネスマンが色んな仕事を同時進行して進めるのがかっこいい、みたいな風潮がある。でも俺は全くそう思わない。むしろ手を広げすぎて無駄に忙しくて仕事が中途半端な人ってイメージ。よっぽどの超人は違うんだろうけど。

俺はマルチタスクよりもシングルタスクを極めたい。シングルタスクは不器用って思う人がいるかもしれないが、全然違う。一つのことに集中して丁寧にこなすという事だ。素早く丁寧に一つ一つこなせば、それはマルチタスクよりも性能が高いと思っている。

何かをしながらやる作業というのは、実はそんなに効率がよくない。例えばテレビを見ながらご飯を食べるのと、見ないで食べるのでは、どちらがより食べ物を味わえるかといえば間違いなく後者だ。人間の情報処理能力なんてたかが知れていて、その少ないリソースを分配すれば必ず無視できない量のオーバーヘッドが起こる。オーバーヘッドとは、何かに付随してかかるコスト。例えば車で曲がり角を曲がる時、そのままのスピードで突っ込んだら事故るのでいったんスピードを落とす。このブレーキに相当するのがオーバーヘッド。人間も、頭を切り替えるには余分なコストがかかる。だから、ながら作業は効率がよくない。

自分はよく音楽を聴きながら仕事をしているが、これも本当はよくないと思っている。確かに気分は良くなるし、ストレスも減る気がする。しかし作業効率がそれで良くなるかといえば疑問。脳は酸素を使って感じたり考えたりする。音楽を聴けば当然その分の酸素が使用される。

瞑想をした後に机に向かうと、音楽が邪魔なことに気づく。瞑想によって無駄な観念が取り払われて集中力が高まった状態では、音楽ですら無駄な刺激と感じる。この時、自分は最高にシングルタスクだなと思う。

佐々木俊尚著「そして、暮らしは共同体になる。」に、おもしろい一節が紹介されていた。禅の大家と武道家の対話で、自分の武術の凄さについてさんざんしゃべった武道家が「あなたは禅の大家として有名だけど、何ができるのか?」と問いかける。それに対して、禅の大家はこう答える。

「拙僧にできることはひとつだけです。歩くときに、歩く。食べるときに、食べる。話すときに、話す」

この人めっちゃシングルタスクやん、と。それも究極の。ここまで行くと極端かもしれないが、瞑想をした後に抱く感覚との共通点をすごく感じる。音楽を聴くのなら、聴こうと。

ネットに触れると、いろんな刺激に満ちていて集中するのが難しくなる。YouTubeには毎秒単位で面白い動画が上がるし、SNSは承認欲求を喚起するわ、ニュースを見れば色んな社会問題を突きつけられる。スマホを何気なく触っている時、この行為は自分の意思ではなく他人の意思で動かされているんじゃないかと時折思う。知らずのうちに自分の行動がネットに調教されている。

だから、自分のひとつひとつの行動を集中してやってみると、いろいろと改めて気づくことができる。息を吸う、吐く。歩く、考える。今ここにいるんだという実感を得る。こういうのをマインドフルネスとか言うんだろうけど、そんなのは流行らせたい人らが作ったバズワードだから気にしない。

つまりシングルタスクとは、無駄な刺激から解放されて、エネルギーを無駄遣いせず、一つ一つのことに集中する仕事法だ。ライフスタイルと言ってもいい。エネルギーは限られている。集中しよう。

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万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

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どうもTAKUYAです。大学の入学前に免許を取って以来ずっとペーパードライバーで、都市生活では出来る限り運転は避ける生活を送っていた。事故を起こせば人を◯してしまう可能性もある代物を日常的に運転するなんて考えられなかった。 そんな自分に転機が訪れたのは、結婚して大阪に戻った事と、子供ができた事、そしてアウトドアに興味を持った事だ。大阪近辺だと箕面とか野勢、神戸、丹波篠山などが日帰りでドライブしやすい距離だ。それで、恐る恐るタイムズのカーシェアで時々ではあるが運転するようになった。 他の車も生きた人間が運転しているという驚き まず運転していて気づいたのは、他の車にも生きた人間が運転していると言う点だ。そんなのは当たり前だろと思うかもしれないが、結構新鮮な発見だった。Grand Theft Autoなどの現代をモチーフにしたゲームをプレイすれば分かるが、NPCの車の動きは鈍臭いのでガンガンぶつかる。プレイヤーの進行を予測した動きなどしないからだ。 しかし現実では相手も事故りたくないので、お互いに動きを読み合い、譲り合って運転する。ルードな運転手もたまにいるものの、どちらかがよっぽ

By Takuya Matsuyama
禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか

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InkdropはMarkdownのノートアプリですが、Markdownの独自拡張は「絶対にやらない」と決めていて、それがアプリの哲学になっています。 Markdown(厳密にはGitHub-flavored Markdown)の強みは、ソフトウェア業界標準で広く使われてい緩い文書フォーマットという所です。 アプリの独自記法を加えてしまったら、あなたの書いたノートはたちまちそれらと互換性がなくなります。 「独自記法を加えた方が便利な機能が付けられるだろう」と思うかもしれません。もちろん実際Markdownは完璧な書式ではないため、必要な場面はいくつかあります。例えば画像のサイズ指定方法が定まっていない、など。それでも自分は、ノートの可搬性を第一にしてきました。その裏には禅にまつわる哲学があります。 日本の文化は周りの環境と対立するのではなく、溶け込もう、馴染ませよう、共生しようとする傾向があります。窓の借景、枯山水、建築の非対称性、茶室のシンプルさ、侘び寂びなどあらゆるところで見られます。 絵画における「減筆」の手法を例にとって説明します。 これは、描線を最小限に抑えながら絹や紙の

By Takuya Matsuyama
Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

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Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

By Takuya Matsuyama
AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

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AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった こんにちは、TAKUYAです。日本語ではお久しぶりです。僕はInkdropというプレーンテキストのMarkdownノートアプリを、デスクトップとモバイル向けにマルチプラットフォームで提供するSaaSとして、かれこれ9年にわたり開発運営しています。 最近、その開発にClaude Codeを導入しました。エージェンティックコーディングを可能にするCLIのAIツールです。 最初の試行は失敗に終わったものの、徐々に自分のワークフローに馴染ませることができました。そして先日、アプリ開発がまた「楽しい」と感じられるようになったのです。これは予想外でした。 本稿では、自分がエージェンティック・コーディングをワークフローに取り入れた方法と、それが個人開発への視点をどう変えたかを共有します。 * 翻訳元記事(英語): Agentic coding made programming fun again 自分のアプリに技術的負債が山ほどあった ご想像のとおり、9年も続くサービスをメンテするのは本当に大変です。 初期の頃は新機能の追加も簡単で

By Takuya Matsuyama