禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか

禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか
Markdownを独自拡張して満足そうなイヌさん

InkdropはMarkdownのノートアプリですが、Markdownの独自拡張は「絶対にやらない」と決めていて、それがアプリの哲学になっています。
Markdown(厳密にはGitHub-flavored Markdown)の強みは、ソフトウェア業界標準で広く使われてい緩い文書フォーマットという所です。
アプリの独自記法を加えてしまったら、あなたの書いたノートはたちまちそれらと互換性がなくなります。

「独自記法を加えた方が便利な機能が付けられるだろう」と思うかもしれません。もちろん実際Markdownは完璧な書式ではないため、必要な場面はいくつかあります。例えば画像のサイズ指定方法が定まっていない、など。それでも自分は、ノートの可搬性を第一にしてきました。その裏には禅にまつわる哲学があります。

借景

日本の文化は周りの環境と対立するのではなく、溶け込もう、馴染ませよう、共生しようとする傾向があります。窓の借景、枯山水、建築の非対称性、茶室のシンプルさ、侘び寂びなどあらゆるところで見られます。

絵画における「減筆」の手法を例にとって説明します。
これは、描線を最小限に抑えながら絹や紙の上に対象の形状を映し出す手法です。禅の絵師たちはその手法を使い、心理的な面での情景を表現しようとしてきました。

伝 牧谿「蓮に鶺鴒図」

蓮に鶺鴒・葦に翡翠図 – MOA美術館 | MOA MUSEUM OF ART
枯れ枝の上に一羽の孤独な鳥が止まっている。無駄な線や影は一つも描かれておらず、秋の 寂寥 感を表すのには、それだけで十分

このように、キャンバスの余白を目一杯活用し、そこに手を加える要素は必要最小限にとどめられている。東洋は生を自らの外側ではなく内側から捉える。
これは、西洋の厳しい自然への超越性を豪華絢爛さによって表現してきた芸術とは対照的といえます。

争い潰し合うのではなく、周囲に溶け込み共存する

Inkdropはこの禅の精神をもって、Markdownとそれを取り巻く環境、すなわちツールやプラットフォーム群との調和、協働を望みます。
Inkdropで書いたものが外へ出て行き、また戻ってきて、あなたのアイデアや感性が広がり、また研ぎ澄まされていく。このライフサイクルを支援したいのです。

ビジネス的に見れば、独自記法を導入すればユーザを囲い込み(ベンダーロックイン)出来て有利かもしれません。
しかし、独自記法を導入している他のアプリを見れば分かる通り、それは結局複雑であったり、覚えにくかったり、記法の変換に苦労する結果になるのが分かります。僕のような一介の開発者が中途半端に拡張するぐらいなら、互換性を貫き、Markdownエコシステムとの調和を図った方が結果的にアプリのためになるのです。つまり、アプリ作者も、ユーザも、エコシステムも嬉しい。これを日本の近江商人の言葉で「三方良し」と言います。

そのような訳で、Inkdropはこれまでも今後も、Markdownの拡張はしません。誓います。安心して技術ノートを取ってくださいね!

Inkdrop - Note-taking App with Robust Markdown Editor
The Note-Taking App with Robust Markdown Editor

Inkdrop v6 Canaryテストに参加する🙌

Inkdrop Desktop v6.0.0-canary.3
Thank you guys for reporting issues!! I’ve fixed a lot of weird behaviors and improved the new features. New feature: Highlighting support with the <mark> tag Highlighting text is one of the most popular use cases when you have reading notes. As you may know, Inkdrop Web Clipper supports importing Kindle highlights. With this update, Inkdrop works perfectly to emphasize what particularly resonates! To highlight with the <mark> tag, select text: Click the highlight toolbar button:…

Read more

過集中を避けるための働き方とルーティン(二児の父ver.)

過集中を避けるための働き方とルーティン(二児の父ver.)

どうもTAKUYAです。 先日書いた通り、最近個人開発を頑張りすぎて体を壊してしまいました。 その原因の一つが過集中癖です。自分はもともと何かに集中すると周りが見えなくなる傾向があり、それがたまに私生活にも影響を及ぼします。同じ失敗を繰り返さないためにも、ちょっと働き方を再設計したいと思います。 働き方に対して他人の指摘をアテにしない 自分のようなフリーランサーまたは自作サービスで生計を立てている人は、時間の使い方を自分で自由に決められます。その反面、どこまでも極端な働き方が出来てしまい、それを指摘したり止めてくれる人がいないという欠点もあります。自分には妻がいますが、全く違う業界なので自分の作業ペースがどのようなものか具体的に把握できません。 「疲れた!」と言えば「休んだら?」と言ってくれますが、働き方やペース配分などにまで口は出しません。なので、他人のストップサインはアテに出来ません。 (心理カウンセラーの可能性を別途検討中) 最近子供が生まれたので厳密なルーティン実行は出来ない 一日を時間単位・分単位で区切ってルーティンを組むのは気持ちがいいですよね。僕もそうしたい

By Takuya Matsuyama
なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

どうもTAKUYAです。最近、個人開発を頑張りすぎて体調を崩してしまいました。アトピーが猛烈に悪化して、QoLが著しく下がってしまいました。まだ療養中ですが、毎日1万歩以上歩いて、徐々に回復しつつあります。 この過ちを繰り返さないためにも、自分は一体何が原因で頑張りすぎてしまうのか?という事について深堀りして考えてみたいと思います。また、個人開発におけるメンタルヘルスはあまり語られていないトピックだと思います。本記事が、同じように仕事を頑張りすぎてしまう人の助けになれば幸いです。 TL;DR * なんとなく続けていたソフト開発が自分を救った * 原体験が歪んだモチベーションを生んでしまった * 親が引くほどの過集中癖がある * 生得的な直せないバグと考えることにする * アプリの成功に関係なく、自分をあるがままに受け入れる * 挫折しないのは、なんだかんだで前向きだから * ユーザさんから「休め!」と叱咤された * 人生は長い。個人開発なんかで死ぬな 自己の原体験について振り返ってみる 個人開発だけで生活するようになって、かれこれ8年ぐらいが経ちます。こう

By Takuya Matsuyama
ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

どうもTAKUYAです。個人開発をしていてアプリの知名度が上がってくると、作者個人(あるいはサイト管理人)を狙った攻撃というのをたまに受けます。つい先日も、怖すぎるメールを受け取ったのでシェアします。 件名: Cookie consent prevents platform access Hello, I cannot access use the store. The cookie consent notice keeps appearing and nothing happens once I approve or try to close it, so I’m unable to interact with the website. Please provide guidance on

By Takuya Matsuyama
万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

どうもTAKUYAです。大学の入学前に免許を取って以来ずっとペーパードライバーで、都市生活では出来る限り運転は避ける生活を送っていた。事故を起こせば人を◯してしまう可能性もある代物を日常的に運転するなんて考えられなかった。 そんな自分に転機が訪れたのは、結婚して大阪に戻った事と、子供ができた事、そしてアウトドアに興味を持った事だ。大阪近辺だと箕面とか野勢、神戸、丹波篠山などが日帰りでドライブしやすい距離だ。それで、恐る恐るタイムズのカーシェアで時々ではあるが運転するようになった。 他の車も生きた人間が運転しているという驚き まず運転していて気づいたのは、他の車にも生きた人間が運転していると言う点だ。そんなのは当たり前だろと思うかもしれないが、結構新鮮な発見だった。Grand Theft Autoなどの現代をモチーフにしたゲームをプレイすれば分かるが、NPCの車の動きは鈍臭いのでガンガンぶつかる。プレイヤーの進行を予測した動きなどしないからだ。 しかし現実では相手も事故りたくないので、お互いに動きを読み合い、譲り合って運転する。ルードな運転手もたまにいるものの、どちらかがよっぽ

By Takuya Matsuyama