なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

なぜ体を壊してまで個人開発を頑張るのか?自尊心の欠如や過集中癖と向き合う

どうもTAKUYAです。最近、個人開発を頑張りすぎて体調を崩してしまいました。アトピーが猛烈に悪化して、QoLが著しく下がってしまいました。まだ療養中ですが、毎日1万歩以上歩いて、徐々に回復しつつあります。

この過ちを繰り返さないためにも、自分は一体何が原因で頑張りすぎてしまうのか?という事について深堀りして考えてみたいと思います。また、個人開発におけるメンタルヘルスはあまり語られていないトピックだと思います。本記事が、同じように仕事を頑張りすぎてしまう人の助けになれば幸いです。

顔の状態
手の状態

TL;DR

  • なんとなく続けていたソフト開発が自分を救った
  • 原体験が歪んだモチベーションを生んでしまった
  • 親が引くほどの過集中癖がある
  • 生得的な直せないバグと考えることにする
  • アプリの成功に関係なく、自分をあるがままに受け入れる
  • 挫折しないのは、なんだかんだで前向きだから
  • ユーザさんから「休め!」と叱咤された
  • 人生は長い。個人開発なんかで死ぬな

自己の原体験について振り返ってみる

個人開発だけで生活するようになって、かれこれ8年ぐらいが経ちます。こういう自分で作ったアプリで生計を立てるというのは、多くの開発者にとって夢の生活だと言われています。実際、受託に頼らずアプリ一本で生活できるようになってとても嬉しいです。しかしながら、悠々自適で自由な生活に見える一方で、誰にも守ってもらえない孤独や不安というのもつきまといます。拙アプ「Inkdrop」はノートアプリですが、このマーケットは過当競争のレッドオーシャンなので、競合に顧客を奪われる不安は常に"猛烈に"襲われます。

まず自分がここまで個人開発にこだわって活動しているのは、一つの原体験が影響しています。大学生の頃、突然人間関係が上手く行かなくなって、何もかもが楽しくなくなった時期がありました。友人に強く否定されたり、振り回されたりして感情が強く揺さぶられることがありました。それが悪循環して親とも激しく喧嘩するようになりました。このような状況で、自分には生きる価値がないと落ち込み、ふさぎ込むようになりました。

なんとなく続けていたソフト開発が自分を救った

人間関係の悩みに落ち込みつつも、個人開発はなんとなく続けていて、作ったソフトをホームページで配布していました。するとある時、自分のホームページの掲示板にある書き込みがありました。「このソフトのお陰で問題が解決したよ、ありがとう!」というような旨のメッセージでした。このメッセージを読んで自分の中に衝撃が走りました。

自分はもともとゼルダの伝説のようなアクションRPGが作りたくてプログラミングを始めました。しかしながら、当時は今ほどゲーム開発ツール群が潤沢に存在しませんでした。それで仕方なくマップエディタやキャラクターデザイナーなどのツールも自前で作っていました(大変だった)。

その流れで、Windowsのツールを作るスキルを自然と学びました。そうこうするうちに、P2Pのファイル転送ツール音楽ファイルの自動タグ付けソフトなど、ちょっとした不便を解決するツールを作るようになったのです。その活動を、大学生の頃にも細々と続けていました。

その配布しているソフトに対して、「ありがとう!」と掲示板で言ってもらえたのは衝撃の体験でした。誇張なく、「俺にも生きる価値があるんだ」と思えました。それぐらい嬉しかったのです。

こんな風に自作したソフトをインターネットで配布している友達は、大学には一人もいませんでした。そのため、当時は親はもちろん周りに話しても、残念ながらこの面白さはほとんど理解されませんでした。しかし、この経験は自分にとって生きる意味を与えるほどの大きな出来事となったのです。

原体験が歪んだモチベーションを生んでしまった

自己への条件付きの愛に苦しむイヌさん

上記のストーリーは一見するといい話の部類に聞こえます。もちろん、自分にとってかけがいのない体験だったことは間違いありません。しかし僕の根本的な問題は解決していませんでした。それは、自己肯定感の欠如です。なぜなら、上記で発見した「生きる意味」は、ソフトを作って配布してユーザに喜ばれて初めて成立するものです。言い方を変えれば、条件付きの自己肯定感なのです。それもかなり厳しい条件です。これでは、無条件に自分を受け入れてあげることができません。

この歪んだ自己肯定感は、歪んだモチベーションを生みます。ユーザが喜んでくれないと生きる意味が見いだせなくなってしまうのです。平たく言うと、ユーザに自分の幸せを掴まれている事になります。ユーザに依存しているとも言えます。

そのため、ネットで話題になるようなものを作れない限り、ずっと虚無感に襲われていました。そのようなものが出来たとしても、話題というのはすぐに移り変わるもの。安定した自己肯定感というのはこの方法では得られません。だから、いつも自分にものすごい負荷を与えて頑張ってしまうようになります。個人開発の成功体験が、どんどん不健康なモチベーションを助長してしまうわけです。

それにしても極端ですね。笑
これは自分の生来のある癖が影響していると考えています。

親が引くほどの過集中癖がある

前述のとおり、自分はもともとゲームを作っていました。学校から帰ってきて、晩御飯を食べてからずっとパソコンにかじりついて、作曲からキャラデザまで取り組んでいました。

ある日、母親に「何でそんなに頑張らないといけないの?」と深刻なトーンで聞かれたことがあります。自分でもわかりませんでした。とにかくやらなきゃいけないことが頭の中いっぱいに広がっていて、他の事を考える余裕がありませんでした。一人でアクションゲームを作るのは無謀な挑戦でしたが、その無謀さに気づく頃には高校卒業間近になっていました。余談ですが、高校受験のときにパソコンで遊ばないようにキーボードを隠された思い出があります。笑

自分はADHDではありません。でも一つのことに集中しだすと、視野狭窄傾向が強くなり、他のことが目に入らなくなります。体が疲れても、「コンパイルが通るまで」「このエラーが直せるまで」と自分に厳しい条件を課して作業を止めることが出来ません。頭がプログラミングでいっぱいになっている時は、トイレと間違えて納戸に入ったり、ジムに自転車で行って徒歩で帰ってきたり、日常生活に支障が出ます。もし同じような経験があるなら、それは危険信号だと考えて下さい。自慢話にはなりませんよ。

こういう自分の特質が、「個人開発で成果を出せば幸せになれる」という思い込みを異常に強化していたのは間違いありません。

生得的な直せないバグと考えることにする

このような過集中癖が健康に悪いことは言うまでもありません。しかし直せ、と言われて直せるなら苦労はしません。RPGに例えるなら、パラメータが著しく偏ったキャラクターみたいなものですね。あるいは、一度コマンドを指示したら10ターンぐらいは変更できないようなイメージです。システム上でそう設定されているんだから仕方ありません。

だから、この難儀な自分の生来の特質を「直せないバグ」と捉えることにしました。ところで、進化医学に面白い話があります。サラブレッドは競走馬として特化する一方で、めちゃくちゃ怪我しやすいという話です:

ネシーが例にあげるのは、競走馬の脚の骨(管骨)だ。サラブレッドの脚は次第に長く、細く、軽くなったが、その代償として脚はどんどん折れやすくなり、今やおよそ1000回のレースにつき1回の割合で競走馬の骨折が発生するようになった。
極端に高い精神的能力に対して選択が強く働いた結果、私たち全員が、競走馬と同じように、回転は速いが壊滅的な不具合への脆弱性を備える心をもつに至ったのかもしれない

進化医学から考える「心はなぜ壊れやすいのか?」 – 橘玲 公式BLOG

あくまで例えなので「へー、そうなんだ」ぐらいに受け止めて頂ければ十分です。自分はアプリの開発能力の才能がありましたが、その代償として過集中というアンバランスさが備わってしまったのです。「アクセルは凄いが、ブレーキとハンドルが効きにくい車である」と最初から分かっていれば、対策は立てられそうですね。

アプリの成功に関係なく、自分をあるがままに受け入れる

自己肯定感の欠如は根深いし、様々なことが絡み合った複合的な問題です。この個人開発への歪んだモチベーションを矯正するには、原体験である成功体験への捉え方を変えることです。つまり、「自分は個人開発が成功しようがしまいが、価値のある人間である」という事実を認めて受け入れることですね。でも、今までいろんな本を読んで、そんな事はとっくに頭では理解しているのです。原体験があまりにも衝撃的だったので、正しい価値観が信念体系まで染み込まないのです。

どうやら、自分を無条件に認めて受け入れてあげるという課題は、おそらく自分にとって一生をかけた試みになりそうです。歳を取るにつれて徐々に出来るようになるかもしれないし、死ぬ間際に急に悟るかもしれません。子育てを通して、幼少期を追体験し、過去のわだかまりが清算されて、もしかしたら自尊心も満たされるかもしれません。

挫折しないのは、なんだかんだで前向きだから

僕は自尊心が欠けているのですが、個人開発になるとなぜか超前向きになる特質があります。自分でもよくわからないのですが、どんなに一生懸命時間を欠けて作ったアプリがコケても、それほど凹みません。「これだけやったんだから、あとは野となれ山となれ。よろしくお願いしまーす!」という気持ちでいつもリリースしています。失敗したら、何がダメだったのか客観的に分析して、次に活かすだけです。

すべては実験である。

そう自分に言い聞かせれば、失敗しても「これは実験なんだ」と思うことが出来て、建設的に結果と向き合えます。この記事も実験です。メンタルの問題について語ってみたらどうだろう?というアイデアの検証と捉えます。

頑張りすぎて体を壊してしまいましたが、そのお陰で人生についてじっくり振り返って考えることが出来ました。アトピーの猛烈な痒みに耐え忍びつつ、動画のネタを考えたり、復帰後の一週間の過ごし方について検討したりしています。復帰後の働き方についてはまた別の記事で書こうと思います。

ユーザさんから「休め!」と叱咤された

こんな辛い目に遭えば、もう個人開発なんて嫌だ!と投げ出してしまうのではないかと心配するかもしれません。いいえ、そんな事は微塵も思いませんでした。前述の通り、なんだかんだで僕は楽観的です。本当にダメなら、とっくにやめてフリーランスに戻っているでしょう。ただ、体に異変が生じ始めた頃は、個人開発を楽しむ余裕はほとんど無くなっていました。熾烈な競合との競争や、退会していくユーザ数のグラフを見て、焦り狼狽し、自分を見失っていたからです。夜、布団に入ってもずっとアプリのことを考えていましたし、休むべき所でちゃんと休めていませんでした。

ちゃんと休めなかった原因の一つは、もし開発の手が止まったら即刻ユーザから見放されて終わりだ、と思いこんでいたからです。しかし、いざ勇気を出して休みを宣言した時、以下のような優しいコメントをいただきました:

コミュニティの反応も概ねポジティブで、「もうInkdropはダメだ」といった反応は一つも無く、むしろ「しっかり休め!」と言った声が多いことに驚きました。本当にありがたいです。

そして休んでいるうちに、心も落ち着いてきて視野が開けるのがわかりました。このあたりの休養中の心身の変化は、また別のエントリでシェアしたいと思います。

人生は長い。個人開発なんかで死ぬなよ!


今回は、自分の働き過ぎの原因を探るために過去に遡って原体験を振り返ってみました。なにか、共感できる部分はあったでしょうか?あなたにとって仕事のモチベーションとなる原体験は何でしょうか。もしよかったら、コメント欄で教えて下さい。

ここまで読んで下さりありがとうございます。Inkdropは、開発者向けのMarkdown特化型ノートアプリです。かれこれ8年以上開発しています。もしノートアプリを探しているなら、ぜひチェックしてみて下さい。

Inkdrop - Note-taking App with Robust Markdown Editor
The Note-Taking App with Robust Markdown Editor

Read more

ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

ユーザサポートの問い合わせを装った攻撃が怖すぎた

どうもTAKUYAです。個人開発をしていてアプリの知名度が上がってくると、作者個人(あるいはサイト管理人)を狙った攻撃というのをたまに受けます。つい先日も、怖すぎるメールを受け取ったのでシェアします。 件名: Cookie consent prevents platform access Hello, I cannot access use the store. The cookie consent notice keeps appearing and nothing happens once I approve or try to close it, so I’m unable to interact with the website. Please provide guidance on

By Takuya Matsuyama
万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

万年ペーパーの自分が車の運転を楽しめるようになった理由

どうもTAKUYAです。大学の入学前に免許を取って以来ずっとペーパードライバーで、都市生活では出来る限り運転は避ける生活を送っていた。事故を起こせば人を◯してしまう可能性もある代物を日常的に運転するなんて考えられなかった。 そんな自分に転機が訪れたのは、結婚して大阪に戻った事と、子供ができた事、そしてアウトドアに興味を持った事だ。大阪近辺だと箕面とか野勢、神戸、丹波篠山などが日帰りでドライブしやすい距離だ。それで、恐る恐るタイムズのカーシェアで時々ではあるが運転するようになった。 他の車も生きた人間が運転しているという驚き まず運転していて気づいたのは、他の車にも生きた人間が運転していると言う点だ。そんなのは当たり前だろと思うかもしれないが、結構新鮮な発見だった。Grand Theft Autoなどの現代をモチーフにしたゲームをプレイすれば分かるが、NPCの車の動きは鈍臭いのでガンガンぶつかる。プレイヤーの進行を予測した動きなどしないからだ。 しかし現実では相手も事故りたくないので、お互いに動きを読み合い、譲り合って運転する。ルードな運転手もたまにいるものの、どちらかがよっぽ

By Takuya Matsuyama
禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか

禅的思考: なぜInkdropはMarkdown独自拡張をしないのか

InkdropはMarkdownのノートアプリですが、Markdownの独自拡張は「絶対にやらない」と決めていて、それがアプリの哲学になっています。 Markdown(厳密にはGitHub-flavored Markdown)の強みは、ソフトウェア業界標準で広く使われてい緩い文書フォーマットという所です。 アプリの独自記法を加えてしまったら、あなたの書いたノートはたちまちそれらと互換性がなくなります。 「独自記法を加えた方が便利な機能が付けられるだろう」と思うかもしれません。もちろん実際Markdownは完璧な書式ではないため、必要な場面はいくつかあります。例えば画像のサイズ指定方法が定まっていない、など。それでも自分は、ノートの可搬性を第一にしてきました。その裏には禅にまつわる哲学があります。 日本の文化は周りの環境と対立するのではなく、溶け込もう、馴染ませよう、共生しようとする傾向があります。窓の借景、枯山水、建築の非対称性、茶室のシンプルさ、侘び寂びなどあらゆるところで見られます。 絵画における「減筆」の手法を例にとって説明します。 これは、描線を最小限に抑えながら絹や紙の

By Takuya Matsuyama
Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

By Takuya Matsuyama