Inkdropサーバレス化計画

Inkdropサーバレス化計画

Inkdropサーバレス化計画

サーバレスアーキテクチャが自分の中で急に熱い。運用もうやりとうない。業界での知見もぼちぼち出揃ってる感じがあるので自分でも挑戦してみたい。MarkdownノートアプリのInkdropを題材にしてやってみる。

サーバレスアーキテクチャとは、その名の通りサーバが無いアーキテクチャのこと。ここでのサーバとは、apacheやnginxなどのサーバプロセスから、LinuxマシンなどのVMを含めたコンピュータを指す。これらを自分で運用する必要がない。まじかよ。

じゃあどうやって提供するのかというと、サーバの代わりにHTTP(S)に応答したりイベントに反応するサービスを使う。処理を行うプログラムは、APIや機能単位で別々にデプロイしたものを使う。これらのプログラムが予め設定した条件で駆動する。つまり、今まで自分でサーバにやらせていたことを、サービス側でやってもらうということ。

メリットは主に3つある。まずスケールの心配が要らない。サービスが勝手に負荷に合わせてリソースを調整してくれるから。次に、コストを最小限に抑えられる。使われていないサーバの稼働時間にお金を払う必要がないから。そして、アプリケーションの本質的な部分の作業に集中できる。監視をがんばったり運用で悩んだりしなくていいから。

デメリットは主に開発手法がまだまだ発展途上なこと。ここ数年で提唱されているアーキテクチャなので、まだまだみんな手探り感がある。あと、ローカルで開発ができない。サーバを手元で動かせないので。でもこの辺は慣れなんじゃないかと思っている。まぁやってみないと分からない。

今のInkdropはherokuで運用されている。データベースはCouchDBで、EC2で運用している。図にすると以下のような感じ。

よくあるクラサバモデル。本当はJSやCSSなどの配信にCDN噛ませたりとかしてるけど省略。これでも満足してるんだけど、オーバスペック気味な点がある。Inkdropは主にクライアントアプリから使うもので、細かなデータ処理はそっちでやっている。だから、ウェブアプリのサーバサイドはほとんど何もしていない。現状のサーバサイドはユーザ認証とか支払い入力などが主な役割。

フロントエンドはReact製のSingle Page Application(以下SPA)。Universalに作っているのでサーバサイドレンダリングに対応している。が、Googleボットに人間が気を遣い頭を悩ませるのはおかしいので、サーバサイドレンダリングはやめてもいいかなと思っている。SEOはサーチエンジンががんばるべきであって人間ががんばるものではない。

このアーキテクチャで、EC2で運用しているCouchDBはどうがんばっても変えられない。ここが運用のボトルネックなのに笑。サーバレス化にあたってDynamoDBなどに乗り換えるのが理想だけど、CouchDBを選んだ理由はクライアント側のPouchDBとの同期機能が優れている点だから仕方ない。Cloudantは重すぎて使い物にならないからDaaSという選択肢は無い。とはいえアプリの性質上、不特定多数による急なアクセス集中の心配は無いので楽観視してる。

https://testmysite.io/ で速度チェックしてみた。スコアが驚きの低さ笑

herokuのリージョンがアメリカなので、これはネットワークのせい。でも一応いろんな国の人が使っているサービスなので、アメリカ以外でも速いに越したことはない。

具体的にサーバレス化する際に使用するサービスで、検討しているのは以下の三つ:

ところで、TJ Holowaychuk はサーバレスアーキテクチャを推している一人で、AWS Lambda用の補助ツールApexも開発している。この人が提供しているApex pingもサーバレスなので、手本にしようと思って調査してみた結果、上記の構成が浮かび上がった。これらを使用した場合のアーキテクチャ図は以下の通り。

検討中のアーキテクチャ

ブラウザはNetlifyのCDNからウェブアプリをダウンロードする。このウェブアプリがAjaxでAPI GatewayのAPIを呼び出すという流れ。CDN経由なので読み込み速度のボトルネック改善が見込まれる。

それぞれ軽く触ってみて、実現可能性があることを確認した。

初めて使ったけど、これはただのCDNではなかった。詳細は公式ページを見て欲しい。自分の中でアツいと思ったのは以下の機能:

  • デプロイの反映が速い。CloudFrontだとキャッシュの無効化に時間がかかる。
  • herokuみたいなgitベースの運用フローができる。Netlify上でビルド処理もやってくれる。
  • SSL対応とカスタムドメインが無料。
  • Pre-renderingに対応している。つまり、サーバサイドレンダリングに非対応なサイトでも、Googleボットに対しては予めレンダリングしたHTMLを返すことができる。ただし有料。
  • API Proxyingに対応している。CORSの設定が要らない。ただし有料。

これを使えば、無料でSSL対応の静的サイトが立ち上げられる。早速自分のホームページも乗り換えてみた: https://www.craftz.dog/ GitHub Pagesよりも性能が良い。

Lambda上ではnode 6.10が動かせる。しかしasync/awaitはnode 7.6からじゃないと使えない。だからbabelが必要となる。めんどい・・。apexでwebpackを使う例があるので参考になりそう。

たぶん開発はほとんどリニューアルみたいになりそう。でも、言語は同じjsなので再利用できる部分は多そう。ついでにデザインも刷新しようかな。AWSに慣れているので学習コストはそこまで大きくないと思われる。

見込めるメリットとしてはまずサイトの読み込みスピードが速くなること。主に負荷を気にしなければならないところがデータベースだけになること。サーバ代はもともと安いのでそんなに変わらなさそう。

以上、サーバレス化に向けての調査記録でした。

Read more

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

By Takuya Matsuyama
AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった こんにちは、TAKUYAです。日本語ではお久しぶりです。僕はInkdropというプレーンテキストのMarkdownノートアプリを、デスクトップとモバイル向けにマルチプラットフォームで提供するSaaSとして、かれこれ9年にわたり開発運営しています。 最近、その開発にClaude Codeを導入しました。エージェンティックコーディングを可能にするCLIのAIツールです。 最初の試行は失敗に終わったものの、徐々に自分のワークフローに馴染ませることができました。そして先日、アプリ開発がまた「楽しい」と感じられるようになったのです。これは予想外でした。 本稿では、自分がエージェンティック・コーディングをワークフローに取り入れた方法と、それが個人開発への視点をどう変えたかを共有します。 * 翻訳元記事(英語): Agentic coding made programming fun again 自分のアプリに技術的負債が山ほどあった ご想像のとおり、9年も続くサービスをメンテするのは本当に大変です。 初期の頃は新機能の追加も簡単で

By Takuya Matsuyama
個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ InkdropというMarkdownノートアプリを作り続けて7年になる。 お陰さまでその売上でずっと生活できている。 これまで個人開発でどう継続していくかについて「ユーザの退会理由をあれこれ考えない」とか「アプリの売上目標を立てるのをやめました」とか、ビジネス面あるいはメンタル面からいろいろ書いてきた。 今回は、技術面にフォーカスして、どう継続して開発していくかについてシェアしたい。 TL;DR * 最初はとにかく最速でリリースする事を最優先する * 迷ったら「ときめく方」を選べ * 程よいところで切り上げて開発を進める * 使っているモジュールがdeprecatedされるなんてザラだと覚悟する * 古いから悪いとは限らない * シンプルにしていく * 老舗から継続の秘訣を学ぶ * 運ゲー要素は排除しきれない 最初はとにかく最速でリリースする事を目標に技術選定する 開発計画とビジネス計画は切っても切り離せない。 コーディングに傾倒するあまり完璧主義に陥って結局リリース出来ないまま頓挫してしまう個人開発者は多い

By Takuya Matsuyama
子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日 どうもTAKUYAです。 久しぶりに生活まわりの事を書きたい。自分はInkdropというMarkdownノートアプリを売って生きている。 子供も無事順調に成長しており、あと数ヶ月で3歳になるというところで、イヤイヤ期もやっと終わりが見えてきた。 生活パターンもなんとなく定着しつつあるので、ここで一旦どんなルーティンなのか書き出してみる。ちなみに当方今年で40歳。 平日の1日の流れ * 06:30 妻と子供起床、朝食 * 07:10–30 俺起床、朝食 * 07:40 布団を畳んで子供を着替えさせる。妻はその間に化粧や通勤の準備 * 08:00 ストレッチと軽い筋トレ(腕立て50回、スクワット100回) * 08:10 妻と子供を見送る。15分前後瞑想 * 08:30 散歩 * 09:00 作業開始(カフェまたは家) * 11:00 昼飯 * 12:00 ダラダラする * 12:30 作業再開(だいたい家)

By Takuya Matsuyama