個人開発者でも出来るコードサイニング証明書によるWindowsアプリの署名

個人開発者でも出来るコードサイニング証明書によるWindowsアプリの署名

個人開発者でも出来るコードサイニング証明書によるWindowsアプリの署名

Certumの証明書を購入してアプリを署名するまでの手順

先に英語で書いてから日本語に訳しています。元記事は “Code signing certificate for indie developers” をご参照ください。

こんにちは、個人アプリ作家のTAKUYAです。InkdropというSaaSでご飯を食べています。現在のビジネス規模だと個人事業主としてやったほうが生活がシンプルに保てるので、まだ会社化していません。僕のアプリはInkdropというMarkdownノートアプリで、macOS、Windows、Linux、iOSやAndroidで動作します。最近のOperating Systemsは積極的にMaliciousなSoftwareからユーザを守る機能を搭載しています。macOSではApp Store外で配布する際はアプリを自分でNotarizeする必要があります。それは特に難しいことではありません。なぜならAppleが基本的に必要なものを提供してくれるからです。一方Windowsでは、Microsoft Store外で配布する際には、自分でサードパーティのCode Signing Certificateを購入して署名しなければなりません。もし署名しなければ、以下のようなWindows SmartScreenの警告がユーザの画面に表示されます:

Windows SmartScreen warning

これは困ります。警告は十分なボリュームのダウンロードが得られれば、Code Signing無しでも消えます。しかし、新しいバージョンをリリースすると再び表示されます。それはあなたのビジネスにおいて著しくConversion Rateに影響を与えるでしょう。なので、僕は自分のアプリ用にCode Signing Certificateを購入して署名しました:

本記事では、どのようにしてCode Signing Certificateを購入して署名したのか、一連の手順を説明します。英語での情報も少ないし日本語の情報は皆無だったので、きっと役に立つかと思います。ただし、実際の手続きにあたって英語の読解力は必須です。何か問題があれば英語でメールのやりとりは不可避です。ご注意下さい。

個人開発者はEV Code Signing Certificatesを購入できない

ここでの個人開発者とは、主に会社を持たず個人で活動している人とします。EV(Extended Validation) Code Signing Certificateを利用すれば、SmartScreenから即座の評価を得られます。しかしそれは企業のみに許されており、個人開発者は入手できません。しかもとても高価です。一方で、Standard Code Signing Certificateなら個人でも購入できることが分かりました。それは即座の評価は得られませんが、バージョンをまたいで評価を蓄積できます。つまり、一度十分なダウンロード数を稼げば、証明書の更新までSmart Screen Warningは表示されなくなります。

最近、CrystalDiskMarkで有名なhiyohiyoさんのブログ記事を見つけました:

オープンソース開発者向けコードサイニング証明書
米GlobalSginに続き、グローバルサイン(日本法人)も個人開発者向けのコードサイニング証明書発行を止めてしまったので、次はどうしようかと思案していたわけですが、 Certum Opensource Code Signing を参考に…

調べてみると、Certumというポーランドの会社が個人向けにも安価なCode Signing Certificatesを提供しているようです。興味深いことに、SimplySignというクラウドサービスを使うと、物理USBトークン無しでモバイル機器を使って認証できるようです。面白い:

Standard Code Signing in the Cloud
Are you a developer of software that you offer online? Do you want to enable your customers to reliably identify your…

コストは €189.00/yr で、Affordableです。これを購入してみました。hiyohiyoさんの記事の通り、オープンソース向けの証明書も更に安価に提供しています。Virtual Machineでも動くかどうか心配だったのですが、人柱になる覚悟で実際に試したところParallels上で無事動きました。ただし公式には対応していないので、やる方は自己責任でお願いします。

証明書の購入

Certum shopで証明書を購入したら、上記のようにOrder Itemが表示されます。“Activate” ボタンでアクティベーションを開始します。

Activation wizard

Click “Next”.

4096-bit key長を選びました。次の画面で、申込者と証明書の情報を入力します。確認画面で、以下のようにVeritication methodを聞かれます:

ここでは “automated identity verification” を選択します。

Submitしたら、ステータスが “Awaiting activation” に変わります:

そしたら、あなたのIdentity Verificationが自動で開始されます。

Identity verification

以下のようなメールが届くはずです:

あと、本人確認にどんな書類が必要か書かれたメールも別途届きます。Verification processについての公式ドキュメントは以下にあります:

Verification process of CS Certificate >> Support | Certum
The issuance of the EV Code Signing certificate requires verification of the identity of the Subscriber and of the…

要するに本人の存在と、住所の証明が英語で必要です。僕の場合は以下のドキュメントを送信しました:

  • パスポート
  • 英語表記の残高証明書 (e.g., ゆうちょ銀行は住所表記付きで英語で発行してくれます)

問題なくうまく行きました。数時間で通りました。彼らがチェックしている間のステータスは:

Regaining access to the SimplySign service

SimplySignサービスの利用を開始するために認証します。彼らが公式のビデオを提供しています。割とわかりやすい:

6-digit secret tokenとQRコードがメールで送られてきます。僕はiOS版SimplySignをインストールし、スキャンしました:

するとアカウントがアクティベートされます:

Order Statusが以下のように変わりました:

Looks nice.

How to use the certificate

まずデスクトップ版のSimplySignをインストールします:

SmartSign for creating and verifying electronic signature
The renewal allows to extend the validity of the certificate Code Signing. Log in to your user account and check the…

モバイルアプリで発行されたトークンを使ってログインします:

するとSimplySignの通知が出ます:

自分の証明書を確認するには、タスクバートレイのアイコンをクリックしてメニューを選びます:

ほんまにWindowsにインストールされているのか確認するには、certmgr.msc を起動して Certificates -> Personal -> Certificates を選択。

Sign your app

公式マニュアルはこちら。ここではsigntool.exe を使います。Windows SDKにバンドルされています。コマンドは C:\Program Files (x86)\Windows Kits\10\bin\10.0.19041.0\x64 にあるはずです。もし“signtool is not recognized”というエラーが出たら、%PATH% 環境変数に通してあげましょう。以下のように signtool を実行します:

❯ signtool sign /debug /n "<YOUR CERT NAME>" /t http://time.certum.pl/ /fd sha256 /v <FILENAME>

例えば、僕のElectronアプリのインストーラーの署名は:

❯ signtool sign /debug /n "Takuya Matsuyama" /t http://time.certum.pl/ /fd sha256 /v .\Setup.exeThe following certificates were considered:
Issued to: Takuya Matsuyama
Issued by: Certum Code Signing 2021 CA
Expires: Fri Aug 23 09:00:00 2024
SHA1 hash: ****************************************After EKU filter, 1 certs were left.
After expiry filter, 1 certs were left.
After Subject Name filter, 1 certs were left.
After Private Key filter, 1 certs were left.
The following certificate was selected:
Issued to: Takuya Matsuyama
Issued by: Certum Code Signing 2021 CA
Expires: Fri Aug 23 09:00:00 2024
SHA1 hash: ****************************************Done Adding Additional Store
Successfully signed: .\Setup.exeNumber of files successfully Signed: 1
Number of warnings: 0
Number of errors: 0

もし /n パラメータがおかしいと、以下のようなエラーが出るでしょう:

SignTool Error: No certificates were found that met all the given criteria.

これでアプリが署名できました。やったね!おめでとう。確認するには:

❯ signtool verify /pa .\Setup.exe
File: .\Setup.exe
Index Algorithm Timestamp
========================================
0 sha256 AuthenticodeSuccessfully verified: .\Setup.exe

これでSmartScreen警告が出る時、Publisherには以下のように表示されます:

“Publisher: Unknown”と表示されるより1万倍良いですね。これで十分なダウンロード数が得られれば、最終的には警告が消えるでしょう。

When got a new iPhone, how to migrate

もしiPhoneを機種変更した時はどうするのという疑問があったので調べました。このドキュメントに書かれていました:

Resetting the access to the service
Resetting the access to the service consists in contacting the Certum Help line in order to submit a request for service access reset. The employee of the Certum Help line performs the access resetting process by verification of personal details of the User requesting the reset of the access to the service. The User’s data contained in their Application for qualified certificate submitted in the Certum system are verified. After correct verification, the User receives a 6-digit code, the so-called secret, from the Certum Operator. Certum sends a one time link for resetting the service access to the e-mail address, which is the User’s ID in the SimplySign System — the link is valid for 24 hours from the moment of its generation in the SimplySign system. The User receives the e-mail message, clicks on the activation link and is directed to Certum website, where they are asked to enter the 6-digit secret. Depending on the reset method, when a secret is entered and the Send button is pressed, the User obtains either the so-called QR Code called a photocode or the so-called 16-character resetting code. After receiving this data, do not close the browser but proceed to the next step of resetting the access to the service.

要するに、Certumに問い合わせてアクセスをリセットしてねとの事。

参考になれば幸いです。

Read more

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

Inkdrop v6.0.0 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山 こんにちはTAKUYAです。 v6.0.0 の最初の Canary バージョンをリリースしました 😆✨ v6では、アプリのコア機能の改善がたくさん盛り込まれています! * リリースノート(英語): https://forum.inkdrop.app/t/inkdrop-desktop-v6-0-0-canary-1/5339 CodeMirror 6 ベースの新しいエディタ フローティングツールバー v5ではツールバーがエディタの上部に固定されており、使っていないときもスペースを占有していました。 v6では、テキストを選択したときだけ表示されるフローティングツールバーに変わりました。 GitHub Alerts 構文のサポート Alerts の構文が正しい色と左ボーダーでハイライトされるようになりました。 ネストされたアラートや引用にも対応しています。 また、アラートタイプの入力を支援する補完機能も追加されました。 スラッシュコマンド 空行で /

By Takuya Matsuyama
AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった

AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった こんにちは、TAKUYAです。日本語ではお久しぶりです。僕はInkdropというプレーンテキストのMarkdownノートアプリを、デスクトップとモバイル向けにマルチプラットフォームで提供するSaaSとして、かれこれ9年にわたり開発運営しています。 最近、その開発にClaude Codeを導入しました。エージェンティックコーディングを可能にするCLIのAIツールです。 最初の試行は失敗に終わったものの、徐々に自分のワークフローに馴染ませることができました。そして先日、アプリ開発がまた「楽しい」と感じられるようになったのです。これは予想外でした。 本稿では、自分がエージェンティック・コーディングをワークフローに取り入れた方法と、それが個人開発への視点をどう変えたかを共有します。 * 翻訳元記事(英語): Agentic coding made programming fun again 自分のアプリに技術的負債が山ほどあった ご想像のとおり、9年も続くサービスをメンテするのは本当に大変です。 初期の頃は新機能の追加も簡単で

By Takuya Matsuyama
個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ InkdropというMarkdownノートアプリを作り続けて7年になる。 お陰さまでその売上でずっと生活できている。 これまで個人開発でどう継続していくかについて「ユーザの退会理由をあれこれ考えない」とか「アプリの売上目標を立てるのをやめました」とか、ビジネス面あるいはメンタル面からいろいろ書いてきた。 今回は、技術面にフォーカスして、どう継続して開発していくかについてシェアしたい。 TL;DR * 最初はとにかく最速でリリースする事を最優先する * 迷ったら「ときめく方」を選べ * 程よいところで切り上げて開発を進める * 使っているモジュールがdeprecatedされるなんてザラだと覚悟する * 古いから悪いとは限らない * シンプルにしていく * 老舗から継続の秘訣を学ぶ * 運ゲー要素は排除しきれない 最初はとにかく最速でリリースする事を目標に技術選定する 開発計画とビジネス計画は切っても切り離せない。 コーディングに傾倒するあまり完璧主義に陥って結局リリース出来ないまま頓挫してしまう個人開発者は多い

By Takuya Matsuyama
子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日 どうもTAKUYAです。 久しぶりに生活まわりの事を書きたい。自分はInkdropというMarkdownノートアプリを売って生きている。 子供も無事順調に成長しており、あと数ヶ月で3歳になるというところで、イヤイヤ期もやっと終わりが見えてきた。 生活パターンもなんとなく定着しつつあるので、ここで一旦どんなルーティンなのか書き出してみる。ちなみに当方今年で40歳。 平日の1日の流れ * 06:30 妻と子供起床、朝食 * 07:10–30 俺起床、朝食 * 07:40 布団を畳んで子供を着替えさせる。妻はその間に化粧や通勤の準備 * 08:00 ストレッチと軽い筋トレ(腕立て50回、スクワット100回) * 08:10 妻と子供を見送る。15分前後瞑想 * 08:30 散歩 * 09:00 作業開始(カフェまたは家) * 11:00 昼飯 * 12:00 ダラダラする * 12:30 作業再開(だいたい家)

By Takuya Matsuyama