個人開発アプリで既存ユーザを喜ばせる事に3.5年集中した

個人開発アプリで既存ユーザを喜ばせる事に3.5年集中した

個人開発アプリで既存ユーザを喜ばせる事に3.5年集中した

長期ユーザが増えてすごい安定して成長している

English version is available here.

こんにちは、TAKUYAです。みなさんが家で安全であることを祈ります。

以前ブログで書いたとおり、僕はよりプロジェクトを継続していくために数字を気にすることをやめました。なのでInkdropの収益をここでご報告するのは久しぶりですが、幸運なことにその成長は今も健全でした。収益の公開はおそらく今回が最後になると思います。大きな理由が無い限りもうする必要がないと思っています。InkdropはクロスプラットフォームなMarkdownのノートアプリで、60日間の無料トライアルがあり、$4.99/月または$49.9/年という毎月コーヒー一杯分の料金で利用できるサービスです。

長期利用ユーザ数が順調に増えている

以下のグラフを御覧ください。先月のMRRが過去最高をマークしました:

806.4k JPY ≒ 7,296 USD

注目すべきはライフタイムバリュー(LTV)が増えていることです:

3,048 JPY ≒ 28 USD

これはつまり長期利用ユーザが増えているという事です。登録者は、平均して7.6ヶ月間 (28 / 5 = 5.6, 60日トライアルを加算)アプリを利用していると見られます。年間プラン(17%オフ)や学割プラグイン開発者ライセンスがあるので完全に正確ではありませんが、いい感じと言えます。中には2016年6月に初めてベータ版をリリースした当初から今もアクティブに使い続けて下さっている方がいることです(ほぼ4年!)。この方たちはこれまでに沢山のフィードバックをくれたので、もちろん一人ひとりの名前も覚えています。本当にありがとうございます🙏✨

なので、本ブログでも繰り返し書いてきましたが、新規ユーザや退会ユーザを追いかけるよりも既存ユーザを大事にするという戦略は正しいと言えます。ご覧の通り成長はとてもゆるやかです。VCに投資を受けたスタートアップのような爆発的成長など一切ありません。しかしこれこそが僕の求めた結果 — — すなわち安定です。InkdropのSubscriber Churn Rate(退会率)は当初60〜90%にも上り酷いものでしたが、それも徐々に減少して今では16%前後に落ち着きました:

一般的にこのチャーンレートはB2Bのサブスクモデルにおいて5%前後と言われています。上図を見て、ベースの退会レートがとても高い事に気づいたかもしれません。なぜならこれはトライアルユーザのキャンセルも含んでいるからです。では、Trial Conversion Rate(トライアルから課金ユーザへの転換率)を見てみましょう。アプリが成熟するとともに、そのレートは徐々に向上しています:

2017年1月が最も悪くて1.75%でしたが、先月は14.29%にまで改善しました。これらの結果とアカウント削除ログの観測から、現在の実際の退会率はだいたい2〜5%程度と見られます。これはInkdrop v4のリリース以降で劇的に改善しました。なので、僕はみなさんがアプリの改善に満足して下さっていると確信しています :)

ところで、今回のように詳しくグラフを眺めたのは実は初めてです。なぜなら興味がないからです。というのも、頻繁に数字をチェックすると不安になって集中できなくなり、短期的戦術に逃げて、上辺だけの不安定な数値改善を求めるからです。誰が喜ぶんでしょうか。僕はそれよりも既存ユーザのために、長期的戦略の実行にこれからも集中したいと思います。なので数字は気にせず、全力で開発を楽しみます。プロダクトを「より大きく」ではなく、「より良く」していく。それが活動の基本方針です。

今回のパンデミックを生き残るためにはどうすればいいか

顧客のロイヤルティを育む

先日、沖縄でデジタルノマドしてきたのですが、多くのお店ががら空きなのを目にしました。恩納村で出会ったダイビングインストラクターの方は、300件ものキャンセルがあったと言います。キツい。一方で、満員の飲食店も見かけました。例えば:

At a Sushi restaurant (so-called “Izakaya”)

お客さんたちは常連で、同じ地域に住んでいると見られます。たまたま居合わせた二人のおっちゃんと仲良くなりました:

ガラ空きだったお店は主に一度しか訪れない旅行客をターゲットにしているようでした。それを見て僕は、一見さんをより多く集めることよりもロイヤルな顧客を持つことが粘り強く生き残るために重要なのだと学びました。

例えば、僕は当初から常に素早くフレンドリーなユーザサポートを提供するよう心がけてきました。ユーザフォーラムで最もアクティブなユーザの活動統計を見てみると次のように驚くものでした:

45件のトピック作成、128件のコメント投稿、合計24時間のサイト滞在

僕は彼の投稿全てに返信しました。彼のバグ報告はとても役に立つものでした。時には提案を断りましたが、その際には出来る限り理由を説明しました。彼の貢献には非常に感謝しています。

イギリスのユーザさんから「ステッカー届いたよ」との知らせで送られてきた写真

そして一部のユーザにはステッカーを贈呈したりもしました。一つ一つ、ものすごく手間のかかる作業でしたが、みなさん喜んでくれました。

自分らしく。自分の個性を製品の背後に隠さない

僕は今回のコロナショックの影響を受けずに済んで非常にラッキーです。でもテック業界の変化はすごく速いです。明日は我が身です。EUのGDPRやAppleのレビューガイドラインの変更など、様々な事が起こりえます。ファンを集めることは個人開発者がこのような環境の変化を生き抜くために有効な手段の一つでしょう。なぜなら、人々があなたを好きな理由は、あなたのアプリそのものと「ゆるく」繋がっているからです。つまり、彼らは「あなた」が作るモノが好きなのです。あなたが次に作るモノも応援してくれる可能性が高いでしょう。

そのためには自分の個性を製品の背後に隠すのではなく、自分らしくあり続ける事が重要です。例えば、ある女性ユーザがなぜプログラマーでもないのにInkdropを使っているのか理由をツイートしていました:

これは象徴的な出来事です。もし僕が自分のアプリづくりの道程をブログに書いていなければ、彼女は間違いなく僕のアプリを使っていなかったでしょう。同様に、同じ理由で僕のアプリを使い続けてくださっている人は沢山いるはずです。彼ら/彼女らを大事にして今後も活動していきたい。

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Inkdrop v6 Canary版リリースしました — 新Markdownエディタやその他新機能盛り沢山

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AIのお陰で最近辛かった個人開発がまた楽しくなった こんにちは、TAKUYAです。日本語ではお久しぶりです。僕はInkdropというプレーンテキストのMarkdownノートアプリを、デスクトップとモバイル向けにマルチプラットフォームで提供するSaaSとして、かれこれ9年にわたり開発運営しています。 最近、その開発にClaude Codeを導入しました。エージェンティックコーディングを可能にするCLIのAIツールです。 最初の試行は失敗に終わったものの、徐々に自分のワークフローに馴染ませることができました。そして先日、アプリ開発がまた「楽しい」と感じられるようになったのです。これは予想外でした。 本稿では、自分がエージェンティック・コーディングをワークフローに取り入れた方法と、それが個人開発への視点をどう変えたかを共有します。 * 翻訳元記事(英語): Agentic coding made programming fun again 自分のアプリに技術的負債が山ほどあった ご想像のとおり、9年も続くサービスをメンテするのは本当に大変です。 初期の頃は新機能の追加も簡単で

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個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ

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個人開発を7年以上続けて分かった技術選択のコツ InkdropというMarkdownノートアプリを作り続けて7年になる。 お陰さまでその売上でずっと生活できている。 これまで個人開発でどう継続していくかについて「ユーザの退会理由をあれこれ考えない」とか「アプリの売上目標を立てるのをやめました」とか、ビジネス面あるいはメンタル面からいろいろ書いてきた。 今回は、技術面にフォーカスして、どう継続して開発していくかについてシェアしたい。 TL;DR * 最初はとにかく最速でリリースする事を最優先する * 迷ったら「ときめく方」を選べ * 程よいところで切り上げて開発を進める * 使っているモジュールがdeprecatedされるなんてザラだと覚悟する * 古いから悪いとは限らない * シンプルにしていく * 老舗から継続の秘訣を学ぶ * 運ゲー要素は排除しきれない 最初はとにかく最速でリリースする事を目標に技術選定する 開発計画とビジネス計画は切っても切り離せない。 コーディングに傾倒するあまり完璧主義に陥って結局リリース出来ないまま頓挫してしまう個人開発者は多い

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子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日

子育て中の個人開発者の一日 どうもTAKUYAです。 久しぶりに生活まわりの事を書きたい。自分はInkdropというMarkdownノートアプリを売って生きている。 子供も無事順調に成長しており、あと数ヶ月で3歳になるというところで、イヤイヤ期もやっと終わりが見えてきた。 生活パターンもなんとなく定着しつつあるので、ここで一旦どんなルーティンなのか書き出してみる。ちなみに当方今年で40歳。 平日の1日の流れ * 06:30 妻と子供起床、朝食 * 07:10–30 俺起床、朝食 * 07:40 布団を畳んで子供を着替えさせる。妻はその間に化粧や通勤の準備 * 08:00 ストレッチと軽い筋トレ(腕立て50回、スクワット100回) * 08:10 妻と子供を見送る。15分前後瞑想 * 08:30 散歩 * 09:00 作業開始(カフェまたは家) * 11:00 昼飯 * 12:00 ダラダラする * 12:30 作業再開(だいたい家)

By Takuya Matsuyama