アプリの新バージョンのローンチをどうやって成功させたか

アプリの新バージョンのローンチをどうやって成功させたか
あらかじめ観衆を作り上げる、推薦文をお願いする、パワフルなランディングページを作る、Hacker Newsのコミュニティには自然体で正直に接しよう
こんにちは、TAKUYAです。このブログは僕の個人開発の経験をシェアする場所です。最近、1人で開発しているInkdropというMarkdownノートアプリの新バージョンをリリースしました:

みなさんのお陰で、たくさんの人が記事を読みに来て、アプリに登録して頂くことが出来ました。こうして良い結果を残して、7ヶ月の取り組みに区切りを付けることが出来たのはとても嬉しいです。次の取り組みに移る前に、今回のローンチをどのようにして成功させたかシェアしたいと思います。何を考えて何を行ったか具体的に説明していきます。
アナウンスから1,000人の新規ユーザを獲得できた

ローンチ前は毎月300人前後の人が新規に登録している状態でした。今月は既に1,000人以上の人がサインアップしています。これを書いていて気づいたのですが、総ユーザ登録数が1万人を突破しました!有料サービスでこの数はなかなか少ないと思うので嬉しいです。リリース告知のブログ記事は1.3万人が読みました。こちらがMediumのレポートです:


ほとんどの人がProduct Huntのこちらの投稿とHacker Newsのこちらの投稿から来ています。以下がGoogle Analyticsのリアルタイムレポートのスクショです。最大風速は80~90でした:

以上が成果の概要です。では、この現象をどのようにして起こしたのでしょうか。
あらかじめ観衆を作り上げる
観衆とは、つまり応援してくれる人です。別に観衆無しでもプロダクトはローンチできますが、やはりある程度いたほうが成功の確率は上がります。Gabriel Weinbergが彼の本の中で、観衆を作る重要性についてこう述べています:
Traction and product development are of equal importance and should each get about half of your attention. This is what we call the 50 percent rule: spend 50 percent of your time on product and 50 percent on traction.
意訳: トラクション(注目を集めること)と製品開発は同程度に重要であり、等しく注意を向ける必要がある。これが我々が50%ルールと呼ぶものだ: 50%の時間を製品開発に、もう50%をトラクションに割り当てなさい
— Gabriel Weinberg, Traction: How Any Startup Can Achieve Explosive Customer Growth
プロダクトがローンチできるまで、すべての集中力を開発に向けたいという強い誘惑に駆られがちですが、それはぐっと堪えてください。もし何か作ると決めたら、それを積極的に友達に話したり、ブログを書いたり、開発しながら絶えず考えていることをシェアしましょう。いざローンチする時、観衆は喜んでアプリを世界に広げるのを手伝ってくれます。僕はこの7ヶ月の間もブログを更新し続けましたし、YouTube動画も投稿しました。観衆が結局ユーザになってくれなくても全く構いません。その観衆それぞれにもまた観衆がいて、その人達が使ってくれる可能性があるからです。
他のコミュニティに参加して貢献する
ギバー(Giver / 与える人)になりましょう。過去にもブログ術についての記事を書きましたが、この他にもう1つ最初から出来ることがあります。それは、他のコミュニティに貢献することです。なぜオープンソース(OSS)のプロジェクトが沢山の称賛を得られるかと言えば、それは彼らがOSSのコミュニティに貢献しているからです。Basecampは内製フレームワーク「Ruby on Rails」をオープンソースにして知名度を上げました。僕もGitHubにいくつかOSSプロジェクトを公開しています。OSSコミュニティだけでなく、世の中には沢山のコミュニティやクラスタが存在していて、彼らはあなたのターゲット層と合致する可能性があります。Inkdropのターゲットはプログラマなので、僕はHackerNoonやfreeCodeCampのブログに記事を提供したりしました。その効果は実際大きかったです。より良く貢献するほど、より人を惹きつけられます。参加するコミュニティを見つけましょう。例えば、ターゲット層が旅行者なら、旅行コミュニティに貢献して評価を積み上げるのです。
The right things often seem both laborious and inconsequential at the time.
正しい取り組みというのは、やってる時はだいたい手間がかかって不合理に見えるものだ
— Paul Graham, スケールしない事をやれ
テイカー(Taker / 奪う人)には決してならないで下さい。フォロワーを買ったりとか、アカウント運用を自動化している人をよく見かけますが、全くもって短絡的だし、結局うまく行くことはありません。なぜなら、満たされるのは自己の虚栄心だけだからです。幽霊アカウントをいくら集めたところで、彼らはプロダクトを広める手助けにはなりません。Pieter Levelsもハッキリこう言っています:
The same applies to buying fake virality. It won’t work. It looks good on paper but it’s not actual humans. And people are less and less impressed with seeing big numbers on somebody’s social media account. (..snipped..) Because we’re sick and tired of fake stuff.
偽りのバイラル性には効果がない。それは見栄えがいいが実際の人間ではない。みんな誰かのSNSアカウントのデカい数字を見ても、別にどうも思わなくなってきている。(..中略..) だって、僕らはもう嘘の内容にうんざりしているからだ。
— Pieter Levels, MAKE: Bootstrapper’s Handbook
活動を人生の一部にしよう
自身の観衆を作るのには時間がかかります。そこに近道はありません。少しずつ、何ヶ月・何年もかけて育てるのです。なのでもし取り組んでいる領域が本当に興味のある事柄ではなかったら、観衆を作り上げるのは難しいと思います。これが「大好きな事に取り組め」と言われる1つの所以です。僕の場合、自分の個人開発の経験を語るにつれて、より多くの個人開発者の方が見に来てくれました。自分の記事が他の人のプロジェクトの役に立っていると聞いて、僕はとても嬉しいです。その気持ちが更なる記事の執筆につながっています。そしてその活動が回り回って、アプリの発展に寄与しています。好循環ですね。僕の観衆は今、1つの個人開発者コミュニティのような感じになっています。
大量のフォロワーを集める必要はありません。ご覧の通り、普段の記事のアクセス数はそんなに大したことありません:

つまり僕の観衆は大きさで言うととても小さいのです。それでも力強く支えてくれています。実際に、今回のローンチでも沢山助けて下さいました。本当に感謝です。
推薦文をお願いする
もし計画しているローンチが僕の場合のように初めてではないのなら、既存の顧客の方々にレビューをお願いすると良いでしょう。顧客の声はプロダクトに大きな信頼を作り出します。

僕はメール経由で課金ユーザにお願いを出しました。実際に送信したメールがこちらです:
Title: Can you help me out?Hi {%firstname%},I have a quick favor to ask.I'm currently building the new website for releasing the new version. Could you write a brief testimonial that I can add to my list of satisfied clients on it?I’m not looking for a novel or anything. Just a few sentences describing your experience with Inkdrop. Prospective users don’t care so much about what I say about my product, but they do care what my customers have to say.For an idea of what other customers have written, please click hereAll you have to do is simply fill this Google Form with your testimonial. Also, if you are able to do this in the next day or two, that would be awesome.Thanks so much, {%firstname%}.— Takuya Matsuyama
僕は基本的に、一斉送信メールを受けるのも送るのも好きではありません。なのでどうやって文面でお願いすれば良いのか、分かりませんでした。そこで、コピーライティングについて勉強して効果的な文面を考えました。今回はRobert Collierのメソッドを使用しました。彼はセールスレターを “will you do me a favor?” から始めると最も効果が上がる事を発見した人です。なので、自分もシンプルに “I have a quick favor to ask. (ちょっとお願いがあるんですが)” と始めて、今やっている事と、お願いしたい事を簡潔に説明しました。みんな忙しいし長くて退屈なメールに目を通す時間なんてありませんから、とにかく率直かつフレンドリーに書きました。
また、ユーザさんがレビューを書きやすいように、過去にもらった推薦文の一覧のリンクを付け加えました。その結果、14人の方から返事を貰えました。お陰様でページに大きな説得力が生まれました!
パワフルなランディングページを作る

今回のリリースに向けて、ウェブサイトも再構築しました。サイトのデザインはSketchのサイトから強くインスパイアされています。彼らの美しく魅力的なページデザインを大いに参考にさせてもらいました:

ページの構成は以下のとおりです:
- 🎤 キャッチフレーズ (これはなんの問題を解決するのか?使うとどのような利益があるのか?)
- 📷 各対応プラットフォームのスクリーンショット (どんな見た目か? 自分のコンピュータ/デバイスでも動作するか?)
- 🚀 機能・UI・セキュリティの説明 (何が出来るのか? どんな感じに動作するのか?)
- 💬 顧客の声 (使った人はどう感じているのか?)
- 📣 行動の呼びかけ (どうやって使い始めるのか? 価格はいくらか?)
- 🙋♂️ 自分について (誰が作ったのか?)
- ✍️ ブログ記事 (どれぐらい活動的か?)
ご覧の通り、各セクションは訪問者が抱くであろう疑問に答えるような内容で構成していて、彼らの判断を促進しています。ウェブサイトを構築したら、上記の疑問に答える内容になっているか確認してみて下さい。
また、サイトはGatsby.jsというReactJSベースで静的サイトが組めるフレームワークを使って作成しました。ソースコードを以下に置いておきます:
Hacker Newsのコミュニティには自然体で正直に接する

HNは誰でも投稿できるので、熾烈な競争が繰り広げられる場所です。HNの人たちはギークで徹底的に率直です(はてなのユーザ層に似ています)。なぜ僕がその場で注目を集められたかというと、おそらく僕も同様にギークで率直だったからだと思います。彼らはスパムを嫌い、広告や嘘やマーケティングを嫌います。僕の活動は過去に4回、HNで話題になりました。以下がその投稿です:
- 1) I’ve been building a Markdown note-taking app for 3 years
533 points | Jun 5, 2019 | 269 コメント - 2) How I’ve Attracted the First 500 Paid Users for My SaaS
925 points | Oct 15, 2018 | 135 コメント - 3) Inkdrop — Notebook app for Hackers
51 points | June 6, 2016 | 57 コメント - 4) The Four Painters: A Video Work Created with Deep Learning
59 points | Dec 23, 2015 | 18 コメント
基本的にこれらのリンク先は自分のブログ記事で、3番のみInkdropのプライベートベータの公開の時のランディングページです。2番が最も大きいブログへの流入を生みましたが、これは僕による投稿ではありませんでした(spiffytechさんありがとう)。4番はディープラーニングを用いた映像作品で、4年前に作ったものです。これらの経験を踏まえると、HNの人たちが好きな話題というのが見えてきます。それは、新しい技術、個人的なストーリー、嘘偽り無いモノ・コトです。マーケティングっぽく無く見せることがHNに受け入れてもらう重要なポイントです。
コメントはほぼ批判的ですが、それに対してカッとせず率直な意見を返しましょう。そうすると議論が盛り上がって、より沢山の人を呼び込めます。彼らは単純にあなたの事をもっと知りたいのです。フレンドリーに接しましょう。
このプロジェクトを今後も続けていきます
ローンチの後、ありがたいことに沢山の問い合わせを頂きました。その中の1つに、「アプリを買いたい」という人がいました。このような買収の話は去年の10月にもあったので、どうやら珍しい事ではないのかもしれません。

彼は、プロダクトを育てるのが好きだと言いました。とても驚きましたが、提案はお断りしました。このプロジェクトの活動は、既に僕の人生の一部になっているからです。これまで頂いた応援メッセージから、一部の課金ユーザさんがお金を払っている理由は単にノートアプリの利便性だけではなく、僕の個人開発で食っていく旅路をもっと見たいという気持ちも含まれていると認識しています。プロジェクトを通して、沢山の共有する意義のある知見がどんどん溜まっています。こんな風に今が一番おもしろい時期なのに、アプリを売却するなんて出来ません。自分自身が、Inkdropがどこまで行けるのか興味があるし、それをお見せしたいと思っています。一緒に発展させて行きましょう!
いつも応援ありがとうございます
ダウンロード: https://inkdrop.app/
フィードバック: https://forum.inkdrop.app/
お問い合わせ: contact@inkdrop.app
Twitter: https://twitter.com/craftzdog
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